新星は、白色矮星と低温度の主系列星ないし赤色巨星から成るの連星系で、低温度星から白色矮星へ水素が流れ込み、白色矮星の表面に降り積もった水素がある臨界量を超えると爆発的な核燃焼を起こし、非常に明るくなる現象であると考えられています。新星爆発では白色矮星の表面に積もった水素だけが飛び散るので、爆発後も白色矮星と低温度星は健在です。そのため、一度新星爆発を起こした後、しばらくすると白色矮星の表面には低温度星から流れ込んだ水素が降り積もり、爆発を起こすのに十分な量になれば再び新星爆発を起こすと考えられています。典型的な新星の場合、一度爆発してから再び爆発するまでには数千年から十万年程度の時間がかかるとされており、普通の新星では人間の一生の間程度の時間では、同じ星が複数回の新星爆発を起こすのを見ることはできません。ところが、新星の中にはごく少数ですが、新星爆発を1年から数十年程度の間隔で繰り返す天体も見つかっており、これらは「反復新星(※1)」と呼ばれています。銀河系内ではさそり座U(vsolj-news 012)やらしんばん座T(vsolj-news 268)、いて座V3890(vsolj-news vsolj-news 357)など、10個程度が知られています。このほど2006年2月の新星爆発(vsolj-news 150)以来15年ぶりに新星爆発を起こしたへびつかい座RSも、このような反復新星として知られていた天体です。
へびつかい座RSは1901年にW. P. Fleming(女性天文学者でHDカタログの編纂などの業績でも有名)によって、当時ハーバード大学天文台で行われていた写真による変光星サーベイから、1898年6月に増光を起こした変光星として発見されました。この天体はその後も1933年、1958年、1967年、1985年、2006年にも新星爆発を起こした事が知られており、普段は11等前後の明るさのこの天体が新星爆発を起こすと4等級まで明るくなります。これまでの研究から、この天体は太陽の1.35倍程度の質量の白色矮星と赤色巨星から成る軌道周期453.6日の連星系であることが分かっており、共生星としても知られています。
今回の新星爆発では、ベルギーのE. MuyllaertさんやアイルランドのK. Gearyさん、ブラジルのA. Amorimさんらによって、日本時間8月9日朝の8月8.91-8.93日(世界時; 以下同様)にへびつかい座RSが5等級に明るくなったが発見されました。さらに、その後の観測から9.124日には4.8等ほどまで明るくなったことが分かりました。日本時間8月9日夜にはほぼ極大光度に近い4等台から5等程度の明るさで見ることができると思われます。このほか、フェルミ ガンマ線宇宙望遠鏡の観測によると、この天体が新星爆発にともなってガンマ線でも明るなったことも報告されました。今後の明るさの変化などが注目されます。
2021年 8月 9日
参考文献
- cvnet-outburst 753
- vsnet-alert 26131
- CBET 5013
- Cheung, C.C., et al., 2021, ATel #14834
※1:"recurrent nova"の日本語訳で、「回帰新星」、「再発新星」などと呼ばれることもあります。