新星は、白色矮星と低温度の普通の星の近接連星で、低温度星から白色矮星へガスが流れ込み、白色矮星の表面に降り積もったガスが爆発的な核燃焼を起こして非常に明るくなると考えられています。新星爆発の後も白色矮星と低温度星は健在なため、一度新星爆発を起こしても、白色矮星の表面に低温度星から流れ込んだガスが降り積もり、爆発を起こすのに十分な量になれば再び新星爆発を起こすと考えられています。しかし、理論的な計算によれば、典型的な新星の場合は一度爆発してから再び爆発するまでには数万年オーダーの時間がかかるとされ、一人の人間が一生の間に同じ星が複数回の新星爆発を起こすのを見ることはないと言えます。ところが、新星の中にはごく少数ですが、新星爆発を十~数十年という短時間で繰り返す天体があり、これらを「反復新星(※1)」と呼びます。今回45年ぶりの新星爆発を起こして増光を始めたらしんばん座Tもそうした数少ない天体の1つです。
らしんばん座Tは1902年に撮影されたハーバード天文台の掃天写真から、Leavittによって発見されました。この天体はこれまでに1890年、1902年、1920年、1944年、1966年の5回の新星爆発を起こしたことが知られており、普段は15等ほどの明るさのこの星は、新星爆発を起こして増光すると6~7等ほどまで増光します。19世紀末から20世紀半ばまでは10~20年程度の間隔で新星爆発を繰り返していましたが、最近では1966年12月に爆発したのを最後にこれまで新星爆発は観測されていませんでした。しかし熱心な観測者はこの天体の増光の監視を怠ってはいませんでした。
今回見事にらしんばん座Tの爆発を発見したのは、アメリカ ハワイのM. Linnoltさんで、4月14.29日(世界時)に、前日には14.5等だったこの天体が13等に増光していることを発見しました。この天体の増光はハワイに次いでこの天体が観測可能になるオーストラリアで確認され、発見時よりもさらに増光し、14.44日には11.3等まで増光したことが報告されました。京都産業大学の神山天文台ではこの天体の分光観測に成功し、水素のバルマー系列や電離したヘリウムや窒素などの多数の輝線がみられることを報告しています。
らしんばん座Tの過去の新星爆発時には他の反復新星と比べてゆっくりと減光する様子が観測され、前回1966年の増光の時には、最も明るい時期では6.5等ほどまで増光し、3ヶ月程度は9等よりも明るく観測されました。今回の増光はCCDなど現代的な観測装置による観測が行なわれる初めての機会となり、今後の観測の結果が楽しみです。また、この天体は極大時には小口径の望遠鏡で眼視的にも見ることができる明るさになると予想されます。らしんばん座は南に低く日本からは観測しづらいですが、南の空の開けたところで観測している方は、45年ぶりに明るくなったこの天体の姿を観測してみてはいかがでしょうか。
※1:"recurrent nova"の日本語訳で、「回帰新星」、「再発新星」などと呼ばれる こともあります。