カシオペヤ座の新星が肉眼等級に

著者:田口健太(京都大学)

三重県亀山市の中村祐二(なかむらゆうじ)さんによって3月18.4236日(世界時、以下同様)に9.6等で発見されたカシオペヤ座の新星V1405 Casは、3月20日頃 -5月初頭までは7-8等を推移していましたが、5月7日ごろより急激に増光し、5月8日には5等台まで明るくなり、肉眼新星となりました。

多くの新星のピーク時での絶対等級は、-6~-9等くらいと考えられています。しかし、V1405 Casが4月頃に示していた8等という見かけの明るさは、この 天体までの距離と星間空間での吸収などを考慮すると、絶対等級-5等にしか相当しません。つまり、4月の明るさは新星のピーク時と呼ぶには暗すぎると言 えますが、今回の増光で、漸く-8等ほどに到達したと言えます。

3月19.4日に京都大学岡山天文台3.8mせいめい望遠鏡によって行なわれた分光観測、3月19.785日にU. Munariさんらのグループによって行われた高分散分光 観測などで、この天体のスペクトルは強い水素のバルマー系列・パッシェン系列や中性ヘリウムの輝線が支配的になっていると報告されていました。その後 、4月6.7日頃より1階電離した鉄のスペクトル線が見え始めたことが報告されています。そして、最近の急激な増光に伴うように、中性ヘリウムの輝線が消 え、鉄の輝線が顕著なスペクトルへと変化したことが報告されています。

この新星が爆発する前は、新星類似型変光星(nova-like variable)と呼ばれる、白色矮星とロッシュローブを満たす低温の主系列星からなる激変星の一種 であったと考えられます。このような天体では、白色矮星(主星)の表面に伴星から流れ込んだ水素ガスが十分に降り積もった際、急激な核燃焼反応が発生し て新星爆発を起こすと考えられます。

この一連のスペクトルの変化は、新星爆発に伴って放出された物質が膨張することで、新星の温度が低下したことを反映していると考えられます。新星爆 発の開始直後は、爆発で放出された物質の温度が高いため、エネルギーの多くが紫外線として放射されていましたが、物質が膨張して温度が下がったことで 、大部分のエネルギーを可視光線として放射するようになって、今回の増光に至ったと考えられます。

今回V1405 Casで見られたような、新星のピーク付近での急な増光現象は、V723 Cas(カシオペヤ座新星1995)、V5558 Sgr(いて座新星2007)、V5668 Sgr(い て座新星2015 No.2)、V612 Sct(たて座新星2017)などでは複数回確認されています。今回のV1405 Casも同様に複数回の急な増光現象を起こす可能性があり 、今後の明るさの変化が注目されます。

2021年 5月14日

参考文献

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