3回目の増光を起こした肉眼新星いて座新星2015 No.2

著者 :前原裕之(国立天文台)

 私たちの銀河系の中心方向にあるいて座にはこれまでに多数の新星が発見されています。しかし、肉眼で見えるほど明るい新星というのはそれほど多くなく、1936年10月に岡林さん他が発見したいて座新星1936(いて座V630)や2002年9月に長谷田さんが発見したいて座新星2002 No.3(いて座V4743)など数えるほどです。いて座の肉眼新星としては13年ぶり、日本から見える肉眼新星としては2013年のいるか座新星(いるか座V339)以来2年ぶりとなる明るい新星が、3月15日に発見されました。新星を発見したのはオーストラリアのJohn Seachさんです。

 Seachさんは3月15.634日にいて座付近を焦点距離50mmのレンズとデジタルカメラを用いて撮影した画像から6.0等の新天体を発見しました。Seachさんは発見直後にHαフィルターを用いてこの天体を撮影したところ、この天体がHα線で明るい天体であることがわかりました。この天体は山形県の板垣さんや、宮城県の遊佐さんなど国内外の多くの観測者から確認観測が報告され、それらの観測によると、この天体は発見時よりもさらに増光しており、5等級にまで明るくなったことが分かりました。板垣さんの観測によるこの天体の位置は

赤経:18時36分56.87秒
赤緯:-28度55分39.3秒  (2000.0年分点)

です。

 発見翌日の16日にはオーストラリアのJ. Powlesさんやスペインのカナリア諸島にあるリバプール・ジョン・ムーア大学の2m望遠鏡によってこの天体の分光観測が行われ、この天体のスペクトルには水素のバルマー輝線や一階電離した鉄などの輝線がみられることが分かり、この天体が古典新星であることが分かりました。また、輝線にみられるP Cygプロファイルから新星爆発によってこの新星が膨張する速度は秒速2400-2800kmであることが分かりました。

 この新星は発見後も1週間程度の間はゆっくりと明るくなり、3月21-23日ごろには4等ほどまで明るくなりました。ちょうどこのころは新月近くで晴天に恵まれたところも多かったたため、明け方にこの新星をご覧になった方も多いのではないかと思います。その後この新星は3月25-26日ごろにはいったん6等ほどまで暗くなりましたが、再度増光を始め、4月4-5日ごろにかけては最初の極大光度と同じく4等ほどまで明るくなったことが観測されました。2回目の増光の後は急速に暗くなり、一時は6等ほどに暗くなっていましたが、4月10日ごろから3回目の増光を起こしつつあることが観測されています。最新の観測データによると、4月12日には4等台後半から5等ちょうどくらいの明るさになっており、空の暗い場所であれば肉眼でも見える明るさです。都市部でも南の空が開けた場所であれば双眼鏡で見ることができるでしょう。新星を探すには日本変光星研究会の変光星速報No.294の星図などを使うとよいと思われます(新星付近の詳細図のみ南北が逆なので注意が必要)。

 この新星は発見直後の観測から比較的青い色をしていることが分かっており、新星と私たちの間にあるガスやチリによる光の吸収の影響がそれほど大きくなく、またみかけの明るさも明るいことから比較的私達の近くにある新星であろうと考えられます。この新星の位置には複数の天体カタログに15等ほどの青い天体があり、もしこの天体が新星爆発を起こしたのだとすると、新星爆発によって元の明るさの数万倍の明るさになったことになります。

 フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡の観測によると、可視光の極大から1.5日ほど経った3月23-24日に、この新星の方向に新たなガンマ線天体が検出されました。可視光の極大の少し後からガンマ線が検出されるのは、同様に肉眼新星となったいるか座新星2013などでも観測されており、今後の研究で新星爆発とガンマ線の放射の関連についても理解が進むことが期待されます。

 この新星は今のところ明るい状態が続いていますが、近赤外線の観測からダスト形成が起きていることが示唆されており、ダスト形成の影響による明るさの変化も注目されます。3回目の増光ではどこまで明るくなるのかだけでなく、今後4回目以降の増光があるのか、それとも暗くなってしまうのか、発見から間もなく1ヶ月が経ちますがまだまだ目が離せません。

参考文献

新星の画像

新星の星図

新星の光度曲線

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