たて座に新星が出現、9等まで増光

著者:前原裕之(国立天文台)

たて座は天の川の中にあり、いて座とわし座、へび座(尾部; Serpens Cauda)に 囲まれた比較的小さな星座ですが、変光星を観測している人にとってはたて座R星 やたて座δ星でおなじみの星座です。たて座の中に6月に発見された新星ASASSN-17hx が、7月下旬になって9等まで明るくなり、小口径の望遠鏡でも見えるようになっ ています。

新星を発見したのは、オハイオ州立大学が中心となりハワイとチリでそれぞれ 4台の口径14cmの望遠鏡とCCDカメラを使って超新星のサーベイを行なっている All-Sky Automated Survey forSupernovae (ASAS-SN, "Assassin")のグループで、 6月23.47日(世界時)に撮影された画像から12.5等の新天体(ASASSN-17ib)を発見 しました。その後、この天体は6月19.41日に14.7等、20.45日に14.1等に増光し てきたところを発見された天体(ASASSN-17hx)と同一であることが分かり、この 新天体はASASSN-17hxと呼ぶことになりました。この天体の位置は

赤経:18時31分45.92秒
赤緯: -14度18分55.6秒   (2000.0年分点)

で、たて座γ星の近くです。

この天体の分光観測は6月24日にブルガリアのロジェン天文台の2m望遠鏡で行な われ、この天体のスペクトルには電離した水素の出すHαやHβ輝線の他、ヘリウ ムや窒素などの輝線がみられることがわかりました。また、中性ヘリウムの輝線 はP Cygプロファイルを示しており、これらの特徴からこの天体は古典新星であ ることが判明しました。

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この新星は発見された後も増光を続け、発見直後には12等の明るさでしたが7月 上旬には11等まで明るくなりました。それに伴なってスペクトルにも変化がみら れ、発見直後には中性ヘリウムや1階電離した窒素の輝線がみられたものの、7月 上旬にはそれらの輝線に代わって1階電離した鉄の輝線がみられるようになりまし た。このような新星爆発直後のまだ完全に明るくなっていない状態では中性ヘリ ウムの輝線がみられ、その後極大付近ではヘリウムが弱くなり1階電離した鉄の輝 線が強くなってくるようなスペクトルの変化は、極大光度になる前に発見された 他の新星(V5558 Sgr=いて座新星2007やV2944 Oph=へびつかい座新星2015など)で も観測されており、比較的遅い減光を示す新星の爆発直後から極大にかけてのス ペクトルの変化として普遍的なものなのかもしれません。

この新星は7月20日ごろまでは11等ほどの明るさで観測され、大きな明るさの変 化はみられませんでしたが、21-22日ごろから急増光を始め、7月23日には10等、 26日には9等にまで明るくなりました。これに伴ないスペクトルにも変化がみられ、 水素のバルマー系列や1階電離した鉄の輝線のP Cygプロファイルの吸収成分が強 くなりました。同様の変化は前述のV5558 SgrやV723 Cas(=カシオペヤ座新星1995) でも観測されており、今後の明るさの変化やそれに伴なうスペクトルの変化が注 目されます。

2017年7月29日

参考文献

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