中村さんがカシオペヤ座に新星を発見

著者:前原裕之(国立天文台)

三重県亀山市の中村祐二(なかむらゆうじ)さんによってカシオペヤ座の中に明るい新星が発見さました。中村さんは3月18.4236日(世界時; 以下同様)に焦点距離135mmのレンズとCCDカメラを用いて撮影した画像から、カシオペヤ座の中に9.6等の新天体を発見しました。発見の報告を受けて行なわれた詳しい観測によると、この天体の正確な位置は

赤経: 23時 24分 47.74秒
赤緯: +61度 11分 14.8秒  (2000.0年分点)

です。

この天体の分光観測は発見から0.4日後の3月18.8日には岡山県倉敷市の大島さんの30cm望遠鏡や、京都大学岡山天文台の3.8m せいめい望遠鏡によって行なわれ、この天体のスペクトルには強い水素のバルマー系列や中性ヘリウムの輝線の他、電離したヘリウムや窒素などの輝線もみられることが分かりました。また、中性ヘリウムの輝線はP Cygプロファイルを示し、その吸収成分は輝線成分に対して秒速1600kmほど青方偏移していることも分かりました。このようなスペクトルの特徴から、この天体が極大光度に達する前の古典新星であることが判明しました。

大変興味深いことに、この新星の位置は15等級の明るさのおおぐま座W型変光星と分類されていた青い色の天体CzeV3217の位置と一致します。また、Gaia衛星のデータによるとこの天体までの距離はおよそ5500光年で、明るくなる前の絶対等級や色、変光の周期は、白色矮星とロッシュローブを満たす低温の主系列星から成る激変星の一種で、新星類似型変光星(nova-like variable)と呼ばれる天体のものと矛盾しません。このような爆発前の天体の性質から、この新星はCzeV3217で起こった新星爆発によって急激に明るくなったと考えられます。

この新星は発見後も増光を続け、発見翌日の3月19日夕方には8等ほど、20日早朝には7等台まで明るくなったことが報告されました。新星までの距離と典型的な新星の極大時の絶対等級から、この新星はさらに明るくなる可能性もあり、今後の明るさの変化が注目されます。この新星にはカシオペヤ座V1405という変光星名がつけられましたので、今後の観測報告ではこの名称をお使い下さい。

2021年3月20日

新星の画像

新星のスペクトル

参考文献

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