夜空の星の多くはひとりぼっちで光っているのではなく、2つ以上の星がお互いの重力で引き合ってまわりあっていることが知られており、連星と呼ばれます。連星と言ってもその規模はさまざまで、アルビレオのようにお互い太陽系の大きさよりはるかに離れて何十万年もかけてまわり合う星もあれば、お互いにほとんど星の大きさ程度しか離れていない軌道を数十分で回り合う星もあります。
しかし、お互いの距離が非常に離れている系はともかく、非常に近い系というのはそれがどうやってできたのか、という疑問が残ります。星は星間ガスが収縮して作られることが知られていますが、お互いに自らの半径ほどしか離れていないところでそのような星が作られるものでしょうか。そんな疑問に答えてくれる仮説として、「共通外層」という現象が考えられています。
連星を構成する星のうち質量の大きな方の系がその進化の最終段階にさしかかった際、巨星へと進化していきます。この際、相手の星の重力圏に迫るまで半径が膨らむと、巨星に進化した星の物質は相手の星の重力圏へと流れ込み質量移動が起きます。さらに質量の流出が進むと物質は相手の星の重力圏の外まで及び、連星全体のまわりを物質がとりかこむような形状となります。これを、共通外層と呼んでいるのです。
この共通外層は、連星から角運動量を抜き去る作用があり、結果中心にいる連星の距離はそれまでに比べて大幅に小さくなります。こうして作られた系が、お互いの距離が極端に短い連星というわけです。もし、この時にお互いの距離が十分に近くなった場合、連星は合体してしまいます。
ところでこの共通外層の時期にあたる星というのは実際に存在するのでしょうか。そもそもどのように見えるのでしょうか。
共通外層は、もちろん通常の星のような核融合などを起こしているわけではありません。しかし、共通外層をつくっているガスは星から噴出されたプラズマ(電子と原子核がバラバラになった状態)であるため、ある程度冷やされて再結合(電子と原子核が再び結びつく)することによりエネルギーを出すと言う形で光を出します。この温度はおよそ5000K程度とされているため、赤い巨星のように見えるだろうと考えられています。
VSOLJ No. 269で紹介したさそり座V1309は、はじめ発見された当初は新星ではないかと考えられましたが、のちに星同士の合体にともなう増光ではないかと考えられるようになりました。増光前の系と考えられる天体が検出されていることから、共通外層を持つ系についての検証にはうってつけであるとされ、このたび、アルバータ大学のイワノワ氏らはこのような共通外層を形成している系での増光についての数値計算シミュレーションを行われました。
この計算によって得られた光度変化は、さそり座V1309の光度変化とよく一致していました。この増光により、太陽の0.03~0.08倍の物質が吹き飛ばされたと考えられています。
イワノワ氏らの見積りによると、このような共通外層を持つ系は、銀河系内で年に0.024個形成されると考えられています。このことから、このような現象の発生頻度は超新星程度であり、さそり座V1309の増光はかなり稀な現象と言えます。また、奇妙な変光星と知られるいっかくじゅう座V838や、2006年にM85の中で見つかったM85 OT2006-1、1988年にアンドロメダ銀河で見つかったM31 RV、といった天体もさそり座V1309とよく似た光度の経過を示しましたが、やはりお互いの距離が非常に近づいた星が共通外層を形成したことによって明るくなった天体として説明が可能ということです。
これまで、このような共通外層を持つ天体は多数発見されている近接連星の起源を説明する重要な鍵となる天体でありながら、理論的に予言されているにとどまる天体でした。今回、このように観測された実際の天体現象と理論上予言されていた天体が結びつけられることにより、近接連星の進化に関する研究に大きな寄与を与えることになりそうです。
参考文献
- 加藤太一「いっかくじゅう座に奇妙な新星?特異変光星?」VSOLJニュースNo.77
- 大島誠人「さそり座V1309は近接連星系の合体か?」VSOLJニュースNo.269
- N. Ivanova et al. "Identification of the Long-Sought Common-Envelope Events." arxiv 1301.5897v1
2013年2月6日