アンドロメダ座大銀河の新星の正体は

著者 :島田雅史・山岡均(九大理)

 新星と超新星、どちらもそれまで星が見当たらなかった場所に新しく星が生まれたかのように見える現象から、その名がついたとされています。しかし、これら2つは全く異なる現象です。新星は白色矮星の表面での小規模な爆発、超新星は星全体が吹き飛ぶほどの爆発によって明るく輝いたものであり、絶対等級では超新星が新星よりも10-15等(1-100万倍)ほど明るくなります。ただし、見た目の明るさは天体までの距離によっても変わります。光量が大きい天体でも、距離が遠くなれば見かけの等級は暗くなってしまうため、新星と超新星の区別は一筋縄ではいきません。

 山形市の板垣公一(いたがきこういち)さんは、11月26.498日(世界時、以下同様)に60cm反射望遠鏡で撮影した画像から、アンドロメダ座大銀河M31の方向に、18.2等の新天体を発見されました。新天体の位置は、

赤経: 0時43分18.62秒
赤緯:+42度10分14.2秒 (2000年分点)

です。

私たちの銀河系のお隣の銀河であるアンドロメダ座大銀河からは年間数十個の新星が発見されており、板垣さん自身もこの銀河に新星を多数発見されています。通常、この銀河に出現した新星は見かけの等級が15等〜18等ほどになることから、今回の新天体も初めはアンドロメダ座大銀河内の新星と考えられました。

しかし、カリフォルニア工科大学のクウィンビー(R. M. Quimby)さんとカスリウォル(M. M. Kasliwal)さんが12月4.22日に分光観測を行なったところ、新天体はアンドロメダ座大銀河よりもはるかに後方に出現したもので、さらに新星ではなく超新星であることが明らかになり、超新星2008hzと命名されました。

超新星の8秒角ほど北東には、かすかに広がった天体があります。この天体は、私たちから10億光年ほど離れた銀河であることが知られています。超新星はどうやら、この銀河のなかにあるもののようです。今回の超新星は、アンドロメダ座大銀河よりも400倍ほど遠く、アンドロメダ座大銀河に出現する場合よりも13等級ほど暗くなったため、ちょうどアンドロメダ座大銀河の新星と同じくらいの明るさで見えたことになります。

いっぽう、やはり板垣さんが発見された、アンドロメダ座大銀河の明るい新星(VSOLJニュース 204)は、発見直後から典型的な新星よりも青い、1時間あまりの周期で0.1等ほどの明るさの変動が見られるなど、アンドロメダ座大銀河の新星ではない可能性が指摘されていましたが、クウィンビーさんらが分光観測し、私たちの銀河系内の矮新星であることが確かめられました。矮新星は、やはり星が急激に明るくなる現象ですが、光量は新星よりもずっと暗く、私たちのごく近くのものしかとらえられません。

天体の距離を測定するのはなかなか困難で、ときには今回のように距離のまったく異なる天体が重なって見えることがあります。星座の星の並びもそうですし、10年ほど前には大マゼラン銀河の背後の超新星が発見されたこともありました(VSOLJニュース 10)。偶然の重なりによって、このような現象に出会えることも、天文学の魅力のひとつかもしれません。

参考文献:

2008年12月8日

※ この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利です。購読・参加お申し込みは ml-command@cetus-net.org に、本文が subscribe vsolj-news と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。