【転載】VSOLJニュース(010)
空を眺めた時に同じ方向に見える天体でも、両者の距離はたいていまったく違います。月が恒星を隠すという現象(星食)はその典型で、恒星は月の何億倍もかなたにあります。そのような好例が今回発見されたのでご紹介しましょう。
大マゼラン銀河は、私たちの銀河系のお伴の銀河で、地球からの距離はおよそ17万光年ほどのところにあります。大マゼラン銀河の星の手前を、私たちの銀河系の外縁部にある暗い星が横切ると、マイクロレンズ現象といって、大マゼラン銀河の星が数十日間にわたって明るくなるという現象が起きます。これを手がかりに、銀河系外縁部の天体を探しているグループがいくつかあります。
そのグループのひとつであるMACHOプロジェクトのBecker氏は、1993年から昨年末まではずっと21等級ほどに見えていた星が、年始から2週間で17等までに明るくなっていることに気付きました。しかし、この星のスペクトルを撮影してみると、非常に広い吸収線があり、どうやらこの星はマイクロレンズ現象で明るくなったのではなく、爆発している星であることがわかりました。この星の吸収線はかなり赤い側にシフトしており、私たちから毎秒10,000kmの速度で遠ざかっていることも見てとれます。このことから、この爆発している星は、大マゼラン銀河のはるか後方、およそ5億光年ほどの距離にある超新星であることが明らかになりました。偶然大マゼラン銀河と重なって見えただけなのです。
21等級で見えていた星の正体はわかっていませんが、この超新星を生んだ銀河の中心核か、偶然同じ方向にあった星かだと考えられます。同じ方向に見える天体も、実はさまざまな距離にあるのだ、というのを実感させる出来事です。
1999年1月29日
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