レチクル座に肉眼等級の新星が出現

著者:前原裕之(国立天文台)

レチクル座は南天の星座で日本からは見ることが困難な小さな星座です。そのレチクル座の中に5等級の明るい新星が発見されました。新星を発見したのはオーストラリアのRobert H. McNaughtさんです。McNaughtさんは7月15.590日(世界時; 以下同様)に焦点距離8mmのレンズとデジタルカメラで撮影した画像から5等級の新天体を発見しました。この天体の位置はMGAB-V207と呼ばれる16-18等ほどの明るさの激変星の位置に非常に近いことが分かり、MGAB-V207が11-13等も明るくなったと考えられました。MGAB-V207の位置は

赤経: 03時58分29.55秒
赤緯: -54度46分41.2秒  (2000.0年分点)

です。さらに、発見前の全天カメラの画像から、この天体は7月7.79日までは5.5-6等より暗かったものの、8.78日には5.4等、11.76日には3.7等ほどにまで明るくなっていたことも分かりました。

この天体の分光観測はオーストラリアのR. Kaufmanさんの他、南アフリカのSALT、オーストラリア国立大学の2.3m望遠鏡で行なわれ、この天体のスペクトルには水素のバルマー系列や中性酸素、1階電離した鉄の輝線がみられることが分かりました。これらの輝線はP Cygniプロファイルを示しており、吸収成分は輝線に対して秒速2700kmほど青方偏移していることも分かりました。これらのスペクトルの特徴から、この天体が極大を過ぎた古典新星であることが分かりました。

Fermiガンマ線宇宙望遠鏡の観測によると、この新星はガンマ線でも明るくなったことが分かりました。7月10日に最初にこの天体の方向からのガンマ線が検出され、翌11日には見えなくなったものの、12-15日には再びこの天体からのガンマ線が検出されました。この新星の方向には既知のガンマ線で明るい天体はなく、新星爆発に伴なって放出されたガンマ線であると考えられます。

MGAB-V207のような激変星は、白色矮星の主星とロッシュローブを満たした主系列星の伴星から成る連星です。このような天体では、主星である白色矮星の表面に伴星から流れ込んだ水素が十分に降り積もれば、新星爆発を起こすと考えられています。それまで新星爆発を起こしたことが知られていない激変星が新星爆発を起こした例は、2018年に中村祐二さんが新星爆発を発見したペルセウス座V392(vsolj-news 348)に次いで、このレチクル座新星が2例目となります。

2020年7月19日

参考文献

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