秋が深まり夏の星座も夕方早い時間帯でないと見ることができなくなってきました。天の川近くの夏の星座の一つであるわし座の中に新星が発見されました。新星を発見したのは、福岡県久留米市の西山浩一(にしやまこういち)さんと佐賀県みやき町の椛島冨士夫(かばしまふじお)さんのチームで、お二人にとっては7月のいて座新星(Nova Sgr 2012 No.4; vsolj-news 289)の発見以来の銀河系内新星の発見です。
西山さんと椛島さんは、10月20.429日(世界時、以下同様)に、焦点距離105mmのレンズをつけたCCDカメラで撮影した2枚の画像から、12.6等の新天体を発見し、直後に口径40cmの望遠鏡でこの天体を確認しました。西山さんと椛島さんの観測によるこの天体の位置は
赤経:18時52分34.96秒 赤緯:-0度18分42.3秒 (2000.0年分点)
です。西山さんと椛島さんが撮影していた過去の捜索画像によると、この天体は10月14日以前には14等以下で写っていませんでしたが、翌15日の画像には13等で写っており、18日には発見時と同じ12等台に増光していたことが分かりました。また、福岡県の高尾さんが19日に撮影していた画像にも発見前のこの新星が写っていたことが報告されたほか、千葉県の野口さん、茨城県の清田さん、宮城県の遊佐さん他多数の国内外の観測者によって、確認観測が行なわれました。
この天体の分光観測は、イタリアのパドヴァ天文台のMunariさんの他、岡山県の藤井さん、美星天文台の綾仁さん、Aerospace CorporationのRudyさんらのグループによってそれぞれ行なわれ、極めて赤い連続光成分と、はくちょう座P型プロファイルを示すHα輝線や酸素、炭素、窒素等の輝線がみられることが報告されました。また、ナトリウムD線の吸収線がみられることや、極めて赤い色をしていることから強い星間吸収を受けていることも分かりました。非常に強い星間吸収のために、肉眼で見た等級に近いVバンドでは14等ほどとかなり暗く観測されましたが、赤外線では6-7等で観測されました。
当初、この天体の正体は、主系列星になる前の天体が急激に明るくなる現象(M78の近くに新たな星雲が出現した現象で有名なV1647 Oriや、NGC 7000/IC 5070の近くにある天体で急激な増光が板垣さんによって発見されたV2493 Cyg)である可能性も指摘されましたが、最終的に極めて強い星間吸収を受けたFeIIタイプの古典新星であることが判明しまた。
分光観測からは、新星爆発によってガスが膨張する速さがそれほど速くないことが分かっており、比較的ゆっくりとした光度変化を示すタイプの新星だと思われますが、一酸化炭素分子の輝線が出ているとの報告があり、ダスト生成による急激な減光など、今後の明るさの変化が注目されます。
参考文献
- CBET 3273 (2012 October 26)
- CBET 3287 (2012 November 1)
・新星の画像
・新星のスペクトル
2012年11月6日