夏の代表的な星座の一つであるさそり座の1等星、アンタレスの西側にはほぼ同じ明るさの青白い星が三つ並んでいます。これらのうち真ん中の星が、さそり座デルタ星です。さそり座の星座線を辿る際には必ず目にしている星かと思われます。
この星は、長年通常のB型のスペクトルをもつ星だと考えられていましたが、10年ほど前の2001年に異変が起こりました。突然、通常光度よりも明るくなり始めたのです。普段2.2等前後であるこの天体は、1.7等近くまで明るくなり、人によっては星座の印象が変わって見えるほどでした(VSOLJニュース 043, 052参照)。
このような増光の起きた原因は、この星が実は単なるB型星ではなく星の周囲に円盤を間歇的に形成するB型輝線星(Be星)と呼ばれるタイプの星であるためということが判明しました。これまでこの星がBe型星であったという記録はないため、2001年に初めて通常のB型星がBe星へと移行した可能性もあります。円盤が形成されるとともに明るさに大きな変化が見られたことなどから、Be星の中でも特に「カシオペヤ座ガンマ型変光星」と呼ばれるグループの天体だろうと考えられました。その後この星は平常光度に戻ったり再び増光したりを繰り返していましたが。増光は2005年ごろにはおさまり、再び長く平常光度に戻っていました。
前回の増光から10年がたった今年の6月19日、再びさそり座デルタ星が明るくなっていることが報告されました。最初に明るくなっていることを報告したのはスペインのJose Riperoさんで、1.6等と報告しています。その後も明るくなったままの状態が続いており、観測者によっては1等台前半に達する明るさで観測がなされています。これは、この星でこれまでに観測されたうちではもっとも明るい光度です。
さそり座デルタ星は、B型の星2つからなる連星であろうと考えられており、その軌道周期は10.7年ほどです。特徴的なのは離心率が0.94と非常に大きいことで(ティクナーさんらの研究による)、伴星が近星点付近を通る際には平均距離に比べて主星に非常に近づきます。ハレー彗星の離心率が0.97であることと比べてそれほど小さくない離心率からも、この連星の軌道が強い楕円であることがうかがえるでしょう。前回の増光の頃がちょうど近星点を通過するころにあたっていたことが分かったため、前回の増光は近づいた伴星によって引き起こされたのではないかとも考えられました。
そして興味深いことに、この次の近日点通過が今年の7月8日なのです、まさに近星点通過に伴っての増光が再び起こった可能性が高いといえます。前回の増光でも、増光後再度暗くなったり明るくなったりを年単位で繰り返しました。今後の動向が注目される天体といえるでしょう。
参考文献
- Tycner, C.et al. "The Revised Orbit of the δ Sco System", ApJ, 729, 5
- 加藤太一 「さそり座デルタ星が歴史的な増光」, VSOLJニュース No.43
- 加藤太一 「さそり座デルタ星がさらに増光」, VSOLJニュース No.52