【転載】VSOLJニュース(041)

NGC 3432に出現した謎の天体? 超新星? 2000ch


著者 :山岡 均(九大理)
連絡先:yamaoka@rc.kyushu-u.ac.jp

こじし座の銀河NGC 3432は、私たちから8Mpcほどの距離にある近傍銀河です。明るさは11.7等とそれほど目立ちませんが、かなり傾いた向きの渦巻銀河で、すぐ南西にあるUGC 5983と相互作用しています。この銀河に、非常に興味ある天体が出現し、注目されています。

Lick天文台の自動撮像望遠鏡KAITのチームは、5月3.2日(世界時)に撮影した画像から、17.4等の新天体を発見しました。位置は、赤経10時52分41.40秒、赤緯+36度40分08.5秒(2000年分点)で、NGC 3432の中心核から123秒東、180秒北にあたります。この付近は、おそらく相互作用のために乱された銀河の腕が濃くなった領域で、新天体はH II領域に重なっているように見えます。ところが、翌日の確認観測で、この天体は18.2等まで暗くなっていました。これほど早く暗くなる超新星は例がありません。発見グループは、この天体を超新星ではないと考えて報告しました。

この発見を受けて、山岡(九州大)は、過去に撮影され電子化されたこの銀河の画像を調べました。すると、1998年5月にパロマー山天文台のシュミット望遠鏡で撮影した画像に、この新天体とほぼ同じ位置に19.5等ほどの暗い点状の天体が写っていることに気付きました。それ以前に撮影された画像では、19.5等は限界等級に近いのですが、この点状の天体は写っていませんでした。普通の超新星は2年間も明るく見えたりはしませんから、やはり超新星らしくありません。

それと相前後して、Wagner(オハイオ州立大)たちはこの天体のスペクトルを撮影しました。その結果は驚くべきものでした。線の中央がNGC 3432銀河の後退速度と一致する偏移をした、2000km/sほどの幅を持つ水素の輝線が観測されたのです。とすると、NGC 3432の内部にある、爆発天体です。彼らは、このスペクトルは古典的な新星のものに良く似ていると述べています。しかし、距離から考えると、この天体の発見時の絶対等級は-12等となり、最も明るい新星の10倍以上になります。

一方、Hudec(チェコ)たちは、発見者たちと協力してこの天体の明るさの変化を調べ、等級の下がり方が時間のlogに比例していると報告しています。9日にはすでに21等近くまで暗くなっていたそうです。超新星の場合、一般に等級は時間に対してほぼ直線的に下がります。このように時間のlogに比例した下がり方をする天体に、最近注目されているガンマ線バーストの残光があります。彼らは、この天体は、ガンマ線は地球方向に向いていなかったが残光だけが見えたものではないかとの解釈を与えています。

これらの情報から、超新星観測の専門家であるFilippenko(カリフォルニア大)は、この天体が、暗いIIn型超新星ではないか、と述べています。このため、この天体には2000chという超新星名が付けられました。VSOLJニュース(016)で紹介した超新星1999bwや、昨年12月に富山県の青木さんが発見された超新星1999euもこの暗いIIn型超新星の例です。このタイプの超新星は、LBV(Luminous Blue Variable)と呼ばれる非常に重い星が、表面を吹き飛ばす現象ではないか、とも言われています。もしそうだとすると、このタイプの代表例である超新星1961Vが、最増光の数か月以上前から明るい状態であったこともあり、2年前の画像でとらえられていたこともあり得ます。今後、すばる望遠鏡などでこの天体が暗くなった後が観測されれば、この奇妙な天体の正体についてより詳しく知ることができると期待されます。

参考文献

2000年5月12日

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転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]