今の季節、南の空に輝くオリオン座には、たくさんの星雲があります。そのなかでも、M78は、ウルトラマンの故郷としても有名な星雲で、オリオン座の三つ星のやや東に位置しています。双眼鏡でも見える明るい星雲で、アマチュア天文家の写真の撮影対象にもなっています。
1月23日、この星雲を口径7.6センチメートルの天体望遠鏡とCCDカメラによって撮影したアメリカのアマチュア天文家、マクネイル(J.W.McNeil)さんは、その星雲のそばで、見慣れない別の小さな星雲が写っていることに気がつきました。その後、ハワイ大学の研究者らによって、その星雲が実在しているのが確認されました。この新しい星雲の位置は、下記の通りです。
赤経 05時 46分 14秒 赤緯 -00度 05.8分 (2000年分点)
この星雲の明るさは、残念ながら15等から16等と暗く、肉眼では眺めることができません。北海道名寄市在住で、超新星の発見で知られるアマチュア天文家・佐野康夫(さのやすお)さんが、新しい星雲の画像を撮影に成功しています(名寄市立木原天文台のウェッブ・ページ参照)。
この場所は、もともとM78の星雲につながる暗黒星雲がある場所です。赤外線の観測では、この場所には可視光では見えない IRAS 05436-0007 という赤外線源があるとされています。これは暗黒星雲に隠されている生まれたばかりの恒星と考えられます。
したがって、この場所が光り出したというのは、この恒星が急に明るくなって、周囲の星雲を照らしはじめた可能性があります。
このように暗黒星雲だった場所が可視光で光り始める現象が捉えられるのは、非常に珍しいことです。誕生まもない星が輝きだす例として、オリオン座FU型星という変光星がしばしば明るくなる現象が知られていますが、今回の増光もそのひとつかもしれません。
京都大学の加藤太一(かとうたいち)さんは「オリオン座FU型星の現象なのか、あるいはより小規模の増光現象なのかの判定には今後の研究を待たなくてはならない。もしそうなら、可視光で、このタイプの増光現象が記録されたものは数例しかなく、たいへん貴重だ。この発見が7.6センチメートルという小型望遠鏡でなされたことも驚きだが、CCDカメラやインターネットを用いた過去画像との照合など、現代の技術を駆使したアマチュア天文学の記念すべき到達点として歴史に残るものだ」と述べています。
オリオン座で恒星の誕生が今も起きていることを実感させる現象といえるでしょう。
2004年2月12日 国立天文台・広報普及室