M78星雲の近くに新しい星雲が出現

著者 :加藤太一(京大理)
連絡先:tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 M78星雲はオリオン座にある有名な星雲ですが、この近傍の暗黒星雲中に驚くべき「新変光星雲」が出現しました。発見は Jay McNeil というアメリカのアマチュアによるもので、7.6 cm望遠鏡とCCDカメラによる撮像によって発見されたものです。詳細は IAUC No.8284 や Star Formation Newsletter No.136 (2004年2月9日)に報告されています。

 天体の位置は 05h 46m 14s, -00o 05'.8 (J2000.0) で、可視光での星雲の光度は 15-16等と報告されています。この位置には IRAS 05436-0007 という赤外線源が知られていましたが、これまでの可視光写真にはほとんど何も見えていませんでした。

 この現象は、この暗黒星雲(Lynds 1630)に隠されていた誕生まもない星(原始星)がアウトバーストを起こし、その光が周囲の星雲を照らしているものと考えられています。このような現象が可視光で観測されることは非常に珍しいものです。

 このような誕生まもない星のアウトバースト現象として、かつて「新星」と考えられた FU Ori現象(1937年増光、現在も明るい状態が続いている)が有名です。20世紀においても、可視光で FU Ori型の増光現象が記録されたものは数例(V1057 Cyg, V1515 Cyg)しかなく、増光期間が捉えられなかったと思われるもの、あるいは可視光は吸収されて見えず、赤外線だけで観測されたものを合わせても確実なものは10個ほどしか知られていません。

 FU Ori型現象は、星がガス雲から形成される時に形成される降着円盤中で、中心星に間欠的にガスが落ち込む現象で、星の成長に大きな役割を果たしていると考えられています。このような間欠的なガスの降着の一つの原因として、矮新星のような降着円盤の不安定が考えられていますが、低温の原始星円盤にどのようにして不安定を起こすようなガスの加熱や電離が起きるのかなど、現在でも未知の部分の多い天体現象です。伴星の重力によって円盤が乱されるためであると考える説もあります。

 いずれにしても、FU Ori型現象は星の誕生過程のごく初期に起きるものと考えられており、ほとんどの期間をガスやちりの雲の中で過ごす原始星の成長過程で「目にみえる初めての光」と言っても過言ではないでしょう。よく知られているおうし座T型(T Tau型)の「生まれたばかりの星」は、この成長のずっと後で、星の周囲の雲が次第に晴れて可視光でも星が見えるようになった段階に相当すると考えられています。

 この新星雲を照らしている星が、FU Ori型の現象なのか、あるいはより小規模の増光現象なのかの判定には今後の研究を待たなくてはなりませんが、「星の誕生を知らせる最初の光」の可能性もあるこの星雲の変動をぜひ注視してみたいところです。天体写真などでもよく撮影される領域ですので、過去の写真や画像をチェックしてみるのも興味深いでしょう。この発見が7.6 cmという小型望遠鏡でなされたことも驚きですが、CCDカメラやインターネットを用いた過去画像との照合など、現代の技術を駆使したアマチュア天文学の記念すべき到達点として歴史に残るものになるでしょう。

 発見前後の比較画像はたとえば以下に示されています。

http://www.balinka.com/m78c.jpg

2004年 2月11日

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