【転載】国立天文台・天文ニュース(450)
金星が逆向きに自転していることはみなさんご存じでしょう。これはどうしてでしょうか。この問題にひとつの説明が与えられました。
太陽系の天体の多くは、自転も公転も正の向き(北から見て反時計回り)です。それに反して金星は1回転に243.02日もかかる、たいへんゆっくりした逆向きの自転をしています。その理由として、これまでは、金星内部での核とマントルの摩擦(CMF)などにより、過去のどこかの時点で、自転軸の向きの南北が反転したという説が唱えられていました。
これに対し、フランス国立中央科学研究所(Centre National de la Recherche Scientifique;CNRS)のコレラ(Correla,A.C.M.)たちは、理論的研究やさまざまな初期条件によるコンピュータ・シミュレーションによって金星自転の履歴を追跡した結果、自転軸が反転しなくても現在の逆自転状態に到達する可能性があることを示しました。
金星が誕生した当時は、おそらく、もっと早い正の向きの自転をしていたと想像されます。しかし、惑星内部のCMFや惑星自体の潮汐変形は、自転にブレーキをかけるとともに、自転軸の向きも変える作用をします。一方、金星進化の過程で生じてくる濃密な大気の潮汐は、反対に自転を加速する方向に作用しますから、長い期間が経過すると、どこかで両者が釣り合って、自転速度も自転軸の向きも安定した最終状態に到達します。結論だけをいいますと、影響を与えるさまざまな未知量はありますが、最終状態の赤道面傾斜角(金星の赤道面と軌道面のなす角)は0度(軸の反転なし)または180度(軸が反転した)のどちらかだけで、自転速度を含めた最終状態はつぎのたった4種しかないことがわかりました。すなわち、(1)自転軸の反転がない正回転(周期76.83日)、(2)自転軸の反転がない逆回転(-243.02日)、(3)自転軸が反転した正回転(-76.83日)、(4)自転軸が反転した逆回転(243.02日)の場合です。ただし正回転のまま自転軸が反転した場合は、結果的には逆回転になったことを意味します。
現在の状態には、初期条件により、(2)の自転軸が反転しない逆回転、(4)の自転軸が反転した正回転のどちらからでも到達できます。自転軸の反転が起こるためには、初期条件の赤道面傾斜角がかなり大きい(50度以上)ことが必要ですが、現実にどちらの道筋をたどったのかは、このシミュレーションだけではわかりません。
なお、これは金星の自転についての研究ですが、この考え方は、濃い大気をもった地球型惑星全般に適用できるものと思われます。
2001年6月21日 国立天文台・広報普及室
--------------------------------------------------------------------- 訂正:国立天文台・天文ニュース (446)「国立天文台諸施設の特別公開」で、 「国立天文台・岡山天体物理観測所」のURLが間違っていました。 正しくは、http://www.cc.nao.ac.jp/oao/pub/openday/openday2001/で す。訂正しお詫びいたいます。(福原註:「新着情報」に転載したニュースではすでに訂正済みです)