【転載】国立天文台・天文ニュース(381)
探査機ニア・シューメーカーによって観測がおこなわれている小惑星 (433)エロスに関して、明らかになったいくつかの事実をお知らせします。 ニア・シューメーカーは今年の2月14日以来エロスを周回する軌道に入 り、近いときは35キロメートル、遠いときで350キロメートルの距離から、 10万枚以上の画像を撮影、レーザーによる距離測定を800万回以上実施し、 エロスの形状、組成、地形、構造などに関して広範な観測を続けてきま した。エロスを作っている岩石が普通コンドライトであることは天文ニュー ス(358)でお伝えしました。その他に、以下のことが明らかになっていま す。
エロスは長さ33キロメートル、直径13キロメートルの細長い円柱を中央 で少し折り曲げたような形をしています。下記のホームページでその形を 見ることができます。さやに入ったままのピーナッツの形とでもいえばい くらか近いでしょうか。質量は10の15乗キログラムの単位で6.678、平均 密度が1立方センチメートル当たり2.7グラムで、これは地球の地殻の密度 に近い値です。表面重力は場所によって異なりますが、毎秒毎秒2.3から 5.5ミリメートルです。これは地球上で体重60キログラムの人がたった14 から34グラムになってしまう重力です。エロスの上で野球のボールを投げ ると、それはもう落ちてこないで宇宙の彼方に飛び去ってしまうでしょう。 またエロスは、そのもっとも短い軸の周りに5時間16分の周期で自転をして います。
小惑星には、こわれた岩石のかけらがたくさん集積しているタイプのも のもあると考えられていますが、エロスはそうではなく、表面に転がって いる岩石破片を別にすれば、全体が一つの塊で、コア、マントルといった 区別のない内部まで一様な岩石と推定されます。もっと大きい小惑星から 数100万年前に欠け落ちた破片ではないかと、ジェット推進研究所のヨー マンス(Yeomans, D.)は述べています。エロスの表面はたくさんのクレー ターで埋め尽くされ、最大のクレーターは直径が5.5キロメートルもありま す。
ニア・シューメーカーは現在地球から1億7600万キロメートルの距離にあ り、100キロメートル程度の高度、時速8キロメートル以下の速さでエロス を周回しています。今後しだいに高度を下げて、10月末には6キロメート ルにまで接近し、さらにそのあとゆっくり降下して、2001年2月にエロス 表面に着陸し、観測を終わる予定です。
2000年9月28日 国立天文台・広報普及室