【転載】国立天文台・天文ニュース(358)

エロスは普通コンドライト


 小惑星(433)エロスを周回している探査機ニア・シューメーカーの接近観測によって、エロスを構成する岩石が普通コンドライトであると推定されました。

 小惑星は、反射率の小さいC型と、反射率の大きいS型その他に大きく分類されます。隕石との反射スペクトルの比較から、C型は炭素質コンドライト、S型はケイ酸塩の小惑星といわれますが、小惑星自体の探査がおこなわれていないので、それが正しいかどうかはわかりません。隕石は小惑星が起源といわれます。しかし、もっとも数の多い隕石の普通コンドライトが、もっとも普通のS型小惑星を起源とするとはは思えない点が大きな謎でした。その色からして違い、S型小惑星の方がずっと赤っぽいのです。

 NASAの探査機ニア・シューメーカーは、この2月にエロスを周回する軌道に入り、エロスの観測を続けています。その研究者たちは、最近開催されたアメリカ地球物理学連合の集会で、エロスの構成物質が普通コンドライトであるとの報告をしました。

 そのひとつの理由は、ニア・シューメーカーに搭載したX線-ガンマ線分光器(XGRS)の観測結果です。XGRSはそれぞれの元素の出す特定の電磁放射を観測し、構成元素を分析する装置です。しかし、信頼できる結果を得るためにはかなり接近をして観測する必要があります。ちょうど5月4日に大規模な太陽フレアが生じ、X線を伴ってエロスを襲いました。その際にXGRSは50キロメートルの距離でそれぞれの元素から生じたX線蛍光を観測し、元素分析に成功したのです。NASAゴダード・スペースフライトセンターのトロムカ(Trombka, J.)は、エロスの成分は確実に普通コンドライトの範囲内にあり、特にLおよびLLクラスのものとよく一致すると述べています。また、メリーランド大学のマクファデン(McFadden, L.)は、やはりニア・シューメーカーの多分光撮像システムと近赤外分光器の観測から、エロスの色、つまり鉱物組成が普通コンドライトと非常によく一致し、エロス全体でほぼ一様であると報告しています。これらの結果から、エロスが普通コンドライトであると結論されたのです。

 では、エロスの見かけが赤っぽいのはなぜでしょう。微小隕石の衝突や太陽風の荷電粒子の衝突によって空間風化(Space Weathering)が起こり、赤くなったという説明が有力です。これらの風化によって岩石粒子から鉄が遊離し、金属相に還元され、ナノメートル・サイズの粒子として表面に堆積し、これがエロスを赤く見せているのです。

 今回の報告は、小惑星の成分を接近して観測したものとしては初めてのものです。観測はまだ続けられていて、今後の成果がさらに期待されます。

参照

2000年6月22日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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