【転載】国立天文台・天文ニュース(323)
天文ニュース(290)で、スペースシャトルから放出された大型X線望遠鏡チャンドラが「カシオペヤ座A」を観測したことをお知らせしました。今回はその詳報です。
「カシオペヤ座A」は300年くらい前に爆発したと推定される、銀河系内でもっとも新しい超新星残骸です。1999年8月20日のチャンドラの初観測を詳しく解析して、ニュージャージー州、ルトガーズ大学のヒューズ(Hughes, John)らは、「カシオペヤ座A」を取り巻いて高速で膨張しているガス雲のもっとも外側の部分に、鉄を多量に含んだかたまりがいくつもあることを発見しました。超新星残骸から鉄を発見したのは初めてのことです。これまでのX線観測衛星は、鉄を検出するには分解能が不足でした。鉄だけでなく、ガス雲の内側の各所にはケイ素を多量に含んだかたまりも見つかっています。
超新星爆発を起こす前の「カシオペヤ座A」は太陽の20倍程度の質量があったと推定されます。この段階で、鉄は恒星の中心部にあり、ケイ素はその外側に位置します。それらを取り巻いて、水素、ヘリウムなどの厚い層があります。爆発のときに、これらを突き破って中心の鉄を含む物質がもっとも早く飛び出し、続いてケイ素を含む物質が飛び散る、つまり内部ほど早く飛び出して、順序が逆転した形になっています。
この逆転はまったく予測できなかったことではありません。大マゼラン雲に出現した超新星1987Aの観測に基づくコンピュータ・シミュレーションから、ニュートリノが引き起こした超新星内部の乱流によって、中心部の鉄を含んだかたまりが外層を貫いて外へ飛び出すことは推定されていました。そのシナリオが、今回の観測で劇的に確認されたのです。
拡散しつつあるガス雲の速度は毎秒数1000キロメートルの高速で、これが生み出す衝撃波がガスの温度を数1000万度にも上昇させ、そこからX線が放射されます。したがって、超新星残骸の解析にはX線観測が欠かせません。チャンドラに続いて、昨年12月10日、ヨーロッパ宇宙機構(ESA)はX線天文衛星XMM(X-ray Multi-Mirror satellite)を打ち上げました。この2月には、日本もX線天文衛星アストロEを打ち上げの予定です。それぞれ特徴を持つ観測が可能で、今後、超新星残骸の観測にも威力を発揮するに違いありません。電波で見ると非常に明るい「カシオペヤ座A」の超新星爆発が、たった300年前のことなのになぜ観測されていないのか、その秘密が解明されるかもしれません。
参照
2000年2月3日 国立天文台・広報普及室