【転載】国立天文台・天文ニュース()
ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics;CfA)のタナンバウム(Tananbaum,H.)は、先日スペースシャトルから放出された大型X線望遠鏡チャンドラが初期の調整を終わり、ファーストライトとして、天体「カシオペヤ座A」を観測したことを報告しています。その結果、鮮明なX線画像が得られ、それとともに、その中心に角度2秒以下の強い点状X線源の存在が確認できたということです。これは、おそらく中性子星と推測されます。
「カシオペヤ座A」は、太陽を別にすると、全天でもっとも強い電波源として知られている天体で、300年くらい前に爆発した超新星残骸と考えられています。しかし、この超新星出現の記録は、歴史にはまったく残されていません。地球からは約1万光年の距離にあります。電波では直径4分ほどに広がった環状の構造がわかり、光でもかすかに星雲状のものが見えます。
チャンドラは、先年物故した有名な天体物理学者チャンドラセカール(Chandrasekhar, S.)にちなんで名付けられた宇宙天文台で、1978年に打ち上げられたX線望遠鏡アインシュタインの後継機にあたります。その立場は、X線によるハッブル宇宙望遠鏡とでもいえばいいでしょうか。打ち上げた高度は非常に高く、月までの距離のおよそ3分の1に達します。高度が高いと、地球に妨害されることが少なくなり、同一天体を長時間続けて観測できる利点がありますが、一面スペースシャトルによる修理が困難になるというマイナス面もあります。しかし、ヨーロッパ、日本などがいくつもX線衛星を打ち上げているのに対し、自前のX線観測機がなかったアメリカにとって、チャンドラはまさに待望の望遠鏡でした。まだ精密調整の段階にありますが、非常に分解能がよく、これは「カシオペヤ座A」の画像からも確認できます。
チャンドラは、ここしばらくはX線天文学で観測の主役をつとめるでしょうが、この12月にはヨーロッパ宇宙機構(ESA)が、感度ではチャンドラをしのぐX線マルチミラー望遠鏡(XMM)を打ち上げ、さらに来年初めには、日本が波長の短い硬X線観測に優れた能力を持つX線望遠鏡アストロEを打ち上げる予定です。これらそれぞれ特徴のあるX線観測装置は、お互いに補い合って、X線天文学に貢献するに違いありません。
参照
1999年9月9日 国立天文台・広報普及室