【転載】国立天文台・天文ニュース(316)
惑星は太陽光を反射して光ります。この状況は系外惑星でも同じです。そして、主星に近いほど惑星は明るいはずです。それでも、系外惑星は主星との見かけの間隔が小さく、明るさに差がありすぎますから、大きい望遠鏡でも、分離した像を直接に見るのは困難です。しかし、分光観測なら主星と惑星の区別ができるかもしれません。
系外惑星は、そのほとんどが、主星である恒星の視線速度の周期的変化を観測して検出されます。惑星は主星の周りを回っていますから、重心の運動の影響を差し引けば、主星が近づくとき、惑星はより速く遠ざかり、主星が遠ざかるとき、惑星はより大きい速度で近づいているはずです。したがって、スペクトル線の中に主星と反対のドップラー変移を示すものがあれば、それは惑星のスペクトル線である可能性があります。
イギリス、セント・アンドルース大学のキャメロン(Cameron,A.C.)らは、カナリヤ諸島、ラ・パルマ島のロック・ド・ロス・ムシャホス天文台にある口径4.2メートルのウィリアム・ハーシェル望遠鏡により、1998年から99年にかけて、「うしかい座タウ星」の分光観測を、合計48時間行いました。この星には3.3日周期で公転する惑星があると推定されていて、太陽から約50光年の距離にあります。この観測からキャメロンらは、主星のスペクトルが毎秒470メートルの赤方変移を示すとき、それに重なって、毎秒74000メートルで青方変移を示す、かすかなスペクトル線を見出したのです。
これが惑星のスペクトルであれば、そこから惑星質量が木星の8倍であると計算されます。スペクトル線の強度が主星の0.01パーセントであることから、木星とおなじ55パーセントの反射能を仮定すると、この惑星の大きさは木星のは1.6-1.8倍になることが導かれます。こうして、分光観測からは、これまで知ることのできなかった系外惑星についてのさまざまな情報が得られます。
不幸なことに、惑星の反射スペクトルはごくかすかなものであるため、検出は非常に難しく、得られた結果の信頼性はそれほど高いものではありません。この春、「うしかい座タウ星」が観測に都合のいい高い位置に達したときに、さらに精度の高い観測結果を得ることが期待されます。精度がまだ不十分なことは否めませんが、この種の観測が、系外惑星分光観測の第一歩であることは確かです。天文ニュース(309)でお知らせした、恒 星面通過から系外惑星の情報を引き出す方法とあいまって、単に存在を推定するだけでなく、系外惑星の性質に迫る時代に入ったことを感じさせます。
参照
2000年1月6日 国立天文台・広報普及室