山形県山形市の板垣公一 (いたがきこういち) さんが、11月25日 (世界時、以下同じ) の観測から、エリダヌス座に8.1等の新星らしき天体を発見しました。この天体は、ご自身が所有する口径21センチメートルの反射望遠鏡を用いた観測によって発見されました。この発見は、九州大学の山岡均 (やまおかひとし) さんを通じて国際天文学連合に報告されました。
この天体の発見日時、位置、発見等級は次の通りです。なお位置は、板垣さんによる口径60センチメートルの反射望遠鏡を用いた確認観測の値です。
発見日時 2009年11月25.536日 = 11月25日12時52分 (世界時) 赤経 4時 47分 54.21秒 赤緯 -10度 10分 43.1秒 (2000年分点) 発見等級 8.1等
板垣さんは、これまで撮影したパトロール画像の中に、約15等の暗い天体が、この天体の位置付近に写っていたことを報告しています。
また、山岡さんは、多くの星表のほぼこの位置に15等の青色の星が存在していて、それが明るくなったものかもしれないと提言しています。この場合、7等の増光は、矮新星 (わいしんせい) としては大きいが、通常の新星にしては小さい、とコメントしています。さらに山岡さんは、ASAS-3 (All Sky Automated Survey:全天自動捜索) の観測によると、この天体が、11月10.236日には写っていなかったこと (限界等級14.0等)、しかし、19.241日に7.34等、22.179日に7.98等、24.269日に8.12等の明るさで検出されていたことを付け加えています。
その後、京都大学花山天文台の前原裕之 (まえはらひろゆき) さんは、花山天文台による観測を始めとする国内の多くの分光観測を報告しています。これらの観測や、世界各地での観測で得られたスペクトルから、この天体がヘリウムや窒素の輝線が顕著なタイプの新星 (注) であることが確認されました。
また、この新星は「エリダヌス座 KT」と命名されました。
さらに、世界各地で撮影されていた画像記録が解析され、11月15日前後にはこの新星が肉眼でも見えるほどの明るさになっていたことがわかりました。そこで、岡山県立水島工業高等学校の大島修 (おおしまおさむ) さんらは、11月12日から25日の間に、オリオン座からその西にかけての空を撮影した画像の提供を呼びかける準備をしています。
板垣さんは、多数の超新星の発見者として知られていますが、新星の発見は、今年8月のへびつかい座の新星に続いて3個目となります。板垣さんのさらなる活躍に期待します。
注:天体の性質は、分光観測で得られたスペクトル線の振る舞いから知ることができる。新星の場合、そのスペクトル線で水素のバルマー線に強い輝線がみられ、大きな膨張速度 (毎秒1000キロメートル以上) を示すものを「古典的新星」または単に「新星」と呼んでいる。さらに古典的新星は、鉄を多く含むタイプと、ヘリウムや窒素の輝線が顕著なタイプに分類される。
2009年12月7日 国立天文台・広報室