そう、あれは2006年夏──。冥王星が惑星から準惑星という新グループに入ってから、早いもので2年が経とうとしています。実は、冥王星の話題はまだまだ尽きません。つい最近も、冥王星やエリスのような太陽系の外縁に存在する準惑星の和名「冥王星型天体」に、「plutoid」という英語名がついたという発表があったほどです (国立天文台 アストロ・トピックス (387) 参照)。
どうして冥王星は惑星から準惑星になったのでしょうか。
惑星の定義が発表された2006年夏の新聞紙面に、「さようなら冥王星」や「冥王星降格」といった見出しが見られました。まるで、冥王星がある日、突然どこかへ行ってしまったり、変形したりして、惑星ではなくなったような印象を受けた方もきっと多いことでしょう。
実際には、そのようなことはありません。冥王星は、1930年に発見されてからこれまで、太陽の周りの同じ軌道上をいつも回り続けています。現在では、太陽系が誕生してから今日までの何十億年ものあいだ、冥王星の軌道は安定に保たれてきたことがコンピュータ・シミュレーションによって示されているほどです。
先の報道には、大きな誤解があります。冥王星や太陽系に何かあったわけではありません。実は、私たちの太陽系に関する理解が深まったことで、冥王星が惑星から準惑星という新しいグループに入ることになったのです。つまり、変わったのは私たちの知識といえます。
では、どうして太陽系に関する認識が深まったのでしょうか。
それは科学の進歩があったからです。大型望遠鏡の建設、高速なコンピュータの出現、新しい研究手法の発明……人間の知的欲求から、太陽系や宇宙を理解する手段が発達し、その結果として私たちの知識が格段に高まったのです。
今夏の第54回青少年読書感想文全国コンクールの小学校高学年向け課題図書に、国立天文台ハワイ観測所の研究員・布施哲治 (ふせてつはる) さんの著書『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』 (くもん出版) が選ばれました。過去53年間の宇宙・天文に関する3冊の課題図書は、いずれも物語のため、研究者が宇宙を解き明かす科学書は今回が初めてです。
どうして冥王星が惑星ではなくなったのか、それは大人だけが持つ疑問ではありません。この本では、小学生にもわかるように、その理由が書かれています。第二章以降は、古代の人びとが思い描いていた宇宙像から、科学の進歩により太陽系の概念が時代とともに広がっていった様子、さらには太陽系研究の最前線まで、興味深いテーマが続く点に注目したいところです。
この夏休み、この本を通して宇宙の神秘に触れながら、子供たちに読書感想文を勧めてみてはいかがでしょうか。
著者の布施さんは「これからの科学の進歩を支えるのは自分たちなんだ、と子供たちに気づいて欲しいですね」。今回の課題図書をきっかけにして、「一人でも多くの子供たちが宇宙に目を向け、読者の中から将来の天文学者が誕生したらうれしいですね」と語っていました。
○過去54年間における宇宙・天文関連の課題図書 1963年:第9回『地球は青かった』 (あかね書房) ガガーリン著 1964年:第10回『宇宙旅行の話』 (偕成社) 村山定男著 1985年:第31回『星になったチロ』 (ポプラ) 藤井旭著 2008年:第54回『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』 (くもん出版) 布施哲治著 (図書館利用者支援データベース・課題図書データベースより)
2008年6月23日 国立天文台・広報室