2006年夏の国際天文学連合 (IAU) 総会で、太陽系の惑星の定義が採択されました。実は、そのときに同時に、「太陽系外縁天体 (注1) で、なおかつ準惑星」という新しい天体の分類を作ることも採択されました。しかし、この分類を新しく作ること自体は採択されたのですが、残念ながら、英語名については合意には至りませんでした。
その後、日本国内では、日本学術会議 物理学委員会 IAU分科会の中に、「太陽系天体の名称等に関する検討小委員会」 (委員長:海部宣男 (かいふのりお)IAU日本代表、前国立天文台長) が設置され、太陽系天体の英語名に対応する推奨和名を決定しました。dwarf planet には準惑星、trans-Neptunian objectには太陽系外縁天体という和名が付けられました。上記の新しい分類の天体については英語名すらIAUで決まっていませんでしたが、委員会では様々な観点からの議論を総合して、冥王星という長い間親しまれた天体に敬意を表する意味合いを込めて、「冥王星型天体」という和名を推奨することにし、IAUにもその趣旨にそった名前を決めて欲しいという要望を提出しました。
この要望を受けて、IAUで太陽系天体を扱う第三部会の中でも議論がすすみ、このたびノルウェーのオスロで開催されたIAU評議員会で、最終的に plutoidという英語名にすることが決定されました。冥王星の英語名である Pluto をもとにした、冥王星の仲間という意味での命名です。冥王星という名前を大事にする「冥王星型天体」という推奨和名とも相性のよい命名となりました。 太陽系天体の名称等に関する検討小委員会の委員でもあり、今回のIAU評議員会に出席した岡村定矩 (おかむらさだのり) ・東京大学副学長は、「冥王星という天体に敬意を表するという方向性で決まった日本の推奨和名と、ほぼ同じニュアンスを持つ英語名に決まったことは、たいへんよかったと思っています」と述べています。
現在、冥王星型天体に分類されているのは冥王星とエリスだけですが、今後は増えていくと考えられます。第三部会の中では、今後、太陽系外縁天体の中でも絶対等級 (注2) が1等よりも明るいものについて、冥王星型天体の候補として固有の名前をつけることになっています。冥王星は、いわば太陽系を構成する新しい種族、「冥王星型天体」の盟主として復権したといえるでしょう。
注1:海王星よりも外側に存在する (軌道長半径が海王星の軌道長半径よりも大きな) 天体。
注2:太陽系内の天体の場合、太陽および地球から天体までの距離を1天文単位 (地球と太陽との間の平均距離) とし、位相角 (天体から見た太陽と地球の間の角度) を0°としたときに、地球から見たその天体の見かけの明るさを絶対等級という。
2008年6月13日 国立天文台・広報室
転載:ふくはらなおひと(福原直人)