太陽風は、太陽から絶えず吹き出て太陽系を満たしている超音速の荷電粒子(陽子、電子などの電気を帯びた粒子) の流れです。その速度は毎秒数百キロメートルと非常に高速であり、オーロラや磁気嵐など地球環境に影響を及ぼす要因の一つとなっています。
太陽風の存在は、彗星の尾の観測により1950年代から予測されており、その後、宇宙空間での人工衛星を使った観測で存在が確認されましたが、太陽のどこからこのような超高速の風が流れてくるか、なぜこんなに高速なのかは長年の謎でした。
2006年9月に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」に搭載されたX線望遠鏡(XRT) の観測により、コロナホール (注1) に隣接した活動領域 (注2) の端から高温のガスが絶えずコロナ上空に流れ出ている様子が発見されました。この成果は、昨年12月に発行された米国の科学雑誌「サイエンス」の「ひので」特集号で発表されました。
これは、太陽風の吹き出し口、特に比較的低速な太陽風の源を直接観測したものである可能性が非常に高いと考えられます。しかし、得られた画像からガスの模様が移動していく様子を捉え、そこから高温ガスの速度を予測したにすぎず、直接ガスの速度を測定しているわけではありません。そのため、本当に高温のガス本体が流れているのか、それとも波動現象のように単に模様が動いている様子を見ているだけなのか、明らかではありませんでした。
今回、この問題を解決するために、XRTで発見されたこの高温ガス噴出領域を「ひので」に搭載された極端紫外線撮像分光装置 (EIS) を使ってさらに観測しました。EISでは、この高温ガス噴出領域を分光観測することで、ガスが流れ出している速度を測定することができます。その結果、高温ガスの流出速度は毎秒100キロメートル程度であることがわかり、XRTを使った観測から予測された値とほぼ一致する結果となりました。
「ひので」に搭載されたEIS、XRTの両望遠鏡の観測により、コロナホールに隣接した活動領域の端から高温のガスが流れ出していることが決定的なものになりました。この研究により、今後太陽風の理解が大きく進むことでしょう。
この研究成果は、米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」4月1日号に掲載されました。
注1:X線で観測すると暗い穴があいたようなに見える領域
注2:黒点など磁場の強い場所の上空にあり、X線で明るく光っているコロナの領域
2008年4月2日 国立天文台・広報室