太陽風の源を「ひので」が同定

 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 、国立天文台などによる研究チームは、2006年9月に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」によって、長いあいだ謎に包まれていた太陽風の発生場所を突き止めることに成功しました。このことで、太陽風が加速されるメカニズムの解明や、地球への影響の予報に大きくはずみがつくことが期待されます。

 太陽風は、太陽から絶えず吹き出て太陽系を満たしている超音速の荷電粒子(陽子、電子などの電気を帯びた粒子) の流れです。地球近傍での速度は、遅いものでも秒速約300キロメートル、速いものでは秒速約800キロメートルにも達し、それぞれ低速太陽風、高速太陽風と呼ばれます。太陽風は、地球の磁場を乱して通信を妨げたり、送電施設にダメージを与えて大規模な停電を引き起こしたり、地球はおろか遠く木星や土星にもオーロラを光らせるなど、地球や太陽系の惑星にさまざまな影響を及ぼしています。

 太陽系に太陽風という流れがあることは、1950年代に彗星の尾の振る舞いから予想されるようになり、その後、人工衛星の観測によって存在が確認されました。しかし、具体的に太陽風が太陽のどこから発生しているのか、また、それがどのようにして超音速にまで加速されるのかは謎のままで、観測から得られる手がかりはこれまで殆どありませんでした。

 2007年2月、「ひので」に搭載されたX線望遠鏡による観測で、太陽のある活動領域 (黒点など磁場の強い場所の上空にあり、X線で明るく光っているコロナの領域) を観測したところ、X線を放射する高温のプラズマガスが、磁力線に沿って太陽上空へと絶えず流れ出ているようすが発見されました。コロナホール () と接する活動領域の端から、温度約110万度のガスが秒速140キロメートル前後の速さで流れ出ていたのです。

 さらに、太陽の光球面の磁場データを使った計算から、このガスの流出域の磁力線は、太陽表面に戻らずに惑星間空間へと伸び出していることがわかりました。このことは、ガスが磁力線に沿って遠方にまで吹き出しうることを示唆しており、今回発見されたガスの流れは、太陽風の発生源をとらえたものと考えられます。

 このように、今回「ひので」により発見されたプラズマガスの流出のようすは、太陽風、特に低速太陽風の源を初めて画像として捉えたということができます。太陽風発生の現場を見ることができるようになったことから、今後、流出と加速のメカニズムや、流出源の場所を知った上での地球への影響の研究が進むことでしょう。

 この研究成果は、12月7日発行の米国の科学雑誌「サイエンス」に掲載されました。

:X線で観測すると暗い穴があいたようなに見える領域

参照:

2007年12月28日           国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)