超新星 2006jc と2年前の増光〜大質量星の終末に起きた2種類の爆発〜

 超新星 2006jc は昨年10月、星の一生の最終段階に起こる大爆発を起こし、山形県山形市のアマチュア天文家、板垣公一 (いたがきこういち) さんによって発見された天体です (参照:アストロ・トピックス (247) )。しかし、この星は大爆発の2年前にも、やはり板垣さんによって小規模な増光が観測されていました。九州大学の山岡均 (やまおかひとし) さんを含む全世界の天文学者たちが連携して解析に取り組んだ結果、これらの現象は2種類の爆発現象であったことが解明されました。1つの星で2種類の爆発が観測されたのは、世界で初めてのことです。

 星全体が吹き飛ぶ大爆発は、超新星と呼ばれています。この超新星のメカニズムのひとつに、誕生時に太陽の8倍以上の重さを持っていた星が、一生の最終段階で起こすものがあります。しかし重い星は個数が少なく、その一生のようすはまだよくわかっていません。特にこの種の超新星爆発は、星がもともと持っていた外層部を失った後に起きる例が多く、その外層部と星周物質のようすによって多様な姿で観測されるのですが、外層部が失われていくようす、そしてそのメカニズムについては、これまでほとんど手がかりがありませんでした。

 この超新星が発見された昨年10月、中心からの全体爆発 (これが超新星として観測された) の時点で、ヘリウムに富む星周物質に囲まれた炭素・酸素コア星であったことが示唆されました。

 一方板垣さんは、2年前にも、ほぼ同じ場所に増光天体を見つけていたのです。2年前の現象も解析していた山岡さんは、発見画像の提供を受けて、この2つの現象の位置が完全に一致すると結論付けました。また2年前の解析時から、過去50年間のアーカイブ画像上で、この天体が映ったり映っていなかったりしていたため、増光が繰り返されていたと考えられました。

 超新星となった後のスペクトルはヘリウムの細めの輝線が顕著で、この星がヘリウムが主成分の星周物質に囲まれていたことを物語っており、X線が強く観測されたこともこれを支持します。2年前の増光に伴って、表面から爆発的に外層部を放出して、この星周物質となったと考えるのが自然です。

 したがってこの天体の正体は、太陽の何十倍もの重さを持って生まれた星が、外層を何回にも分けて放出してきた結果、水素に富む外層、そしてヘリウムの層をも失って、炭素・酸素でできた中心部だけになった挙句に超新星となったものであろうと考えられました。つまり2004年の増光は、ヘリウム層を吐き出す表面爆発の最後の1回で、2006年の爆発は星が一生の最後に起こす超新星爆発だったのです。表面爆発と全体爆発 (超新星) の両方が1つの天体で観測されたのは世界初です。この現象は、これまでくわしく解明されていなかった重い星の進化の過程に、大きなヒントを与えてくれるものだったといえるでしょう。

 山岡さんは、「天文学は、アマチュアが大いに活躍している数少ない学問分野のひとつです。特に日本のアマチュア天文家は、新天体の発見をはじめ、幅広くかつ深い活躍を見せています。今回の発見はそのような活動の成果であり、プロの天文学者としては、彼らの活躍をより実りあるものにするため、日々努力していきたいと考えています。特に、アマチュア天文家が発見した新天体を研究することは、その発見を意味あるものにするために必須です。これからも、アマチュアとプロが手を取り合って、天文学を推進していきたいと考えています。」とコメントされました。

 なおこの成果は、2007年6月14日発行の英国の科学論文誌 Nature に発表されました。

 ※この情報は、九州大学の山岡均さんよりご提供頂きました。

参照:

2007年6月21日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)