彗星の内部構造、初めて解明

 大阪大学、東京大学、国立天文台などからなる研究チーム (注) は、ディープ・インパクト探査による衝突探査実験時にすばる望遠鏡で得られた観測結果を解析し、世界で初めて彗星の内部、特に表面に近い部分が成層構造をなしていることを明らかにしました。

 NASA (アメリカ航空宇宙局) のディープ・インパクト探査では、切り離された子機がテンペル第一彗星の核に衝突し、彗星内部の物質が宇宙空間に放出されました。探査機母船および地上望遠鏡では、集中的に観測が行われ、様々な知見が得られています。マウナケア山頂の国立天文台すばる望遠鏡でも、他の大望遠鏡とも連携しながら、中間赤外線撮像分光装置 COMICS を用いて、その観測に成功し、放出物の総量の推定などを行いました (国立天文台アストロ・トピックス (142) )。

 ところが、当初期待されたような彗星の内部構造の推定につながる結果は、衝突から2年近くたった現在でも報告されていません。これは、子機の衝突によって形成した放出物が予想を超えるほどの明るさになり、カーテン状に分布した放出物が衝突地点を隠してしまい、衝突によってできたであろうクレーターの内部 (彗星内部構造が露出しているはずの領域) を、地上からも探査機本体からも、全く観測できなかったことが大きな原因となっています。

 一方、すばる望遠鏡で得られた中間赤外観測データには、可視など他の波長帯の観測ではできない放出物質の区別や、粒子サイズの推定ができるという長所がありました。そのため、引き続き、観測データを注意深く詳細に解析したところ、彗星近傍に観測された衝突放出物の分布の中に物質的な層状構造を発見したのです。これは彗星表面のクレーター生成メカニズムを考えると、彗星の内部の成層構造に対応していると考えられます。

 研究チームは、この彗星の核の表面が炭素質の非常に微小 (直径約1マイクロメートル以下) な粒子を多く含む数十センチの厚さの層で覆われ、その下ではシリケイト粒子がたくさんあることを示しました。この結果は、彗星の核の内部の構造に関する直接的な証拠を得たものであり、彗星の進化を考える上で非常に重要な発見といえるでしょう。

 この結果は、2007年5月20日発行のアストロフィジカル・ジャーナル誌に発表されました。

(注) 大阪大学、東京大学、名古屋大学、神奈川大学、京都産業大学、早稲田大学、および国立天文台の研究者からなる研究チーム

参照:

2007年5月21日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)