すばる望遠鏡によるディープインパクト探査の観測結果

 東京大学、名古屋大学、国立天文台を中心とした日本、アメリカ、台湾の国際共同研究チーム(注)は、ディープインパクト探査機からの衝突体(インパクター)のテンペル第一彗星の衝突を、すばる望遠鏡を用いて詳細な観測を行い、テンペル第一彗星の内部物質の組成や衝突の衝撃によって宇宙空間に飛び出した物質の量を明らかにしました。

 アメリカ航空宇宙局によるディープインパクト探査機から放出された衝突体(インパクター)は、去る7月4日(日本時間)にテンペル第一彗星と高速衝突をしました。これは、これまで謎だった彗星の内部物質を衝突により掘削し、その組成などを詳細に観測することを目的としていました。中でも、太陽のまわりを何度も回るテンペル第一彗星のような木星族短周期彗星と、ヘール・ボップ彗星のように一度しか現れない長周期彗星の違いを知ることが大きな課題となっていました。

 このためディープインパクト探査機には様々な観測機器が搭載されていましたが、すばる望遠鏡の持つ中間赤外線で観測するような装置は搭載されておらず、この波長領域での精密な観測は、重要な情報をもたらしてくれるだろうと期待されていました。

 観測結果は期待通りでした。第一に、木星族彗星であるテンペル第一彗星の内部とヘール・ボップ彗星などのオールト雲彗星が、非常に似た結晶/非結晶比率と大きさ分布を持ったケイ酸塩粒子を持っていることを明らかにしました。これまでの観測は、木星族彗星のケイ酸塩粒子は、オールト雲彗星と非常に違った特徴を持っていることを示していましたが、今回の観測結果は、この違いは表面的であり、内部は非常に似ていることを強く示唆しています。木星族彗星とオールト雲彗星では、その由来する彗星の巣の場所も大きく異なり、形成過程もかなり違うことが予想されていました。しかし、今回の観測結果は、これら2つの軌道としては大きく異なる彗星族が、原始太陽系星雲内の似たような場所で形成された可能性を示しています。これは、太陽系全体の形成史を理解する上で非常に貴重な情報となるはずです。

 第二に、ディープインパクト探査機の衝突により約1000トンという大量の放出物が彗星から宇宙空間に放出されたことが明らかになりました。この大きな放出物量は、彗星の表面の強度が非常に小さく、すぐ壊れることを示しています。また同じくこの放出物量から、彗星表面には約直径100メートルほどのクレーターができたことが推定されました。衝突の結果できたクレーターの大きさは、探査機の母船カメラから計測することができなかったため、世界の他の観測結果を解析する上で非常に重要な役割を果たすと期待されています。

 この研究成果は科学雑誌「Science Express(オンライン版)」の 2005年9月15日号に掲載されています。

(注)東京大学、名古屋大学、宇宙航空研究開発機構、京都産業大学、早稲田大学、総合研究大学院大学、台湾中央大学、ハワイ大学、アメリカ航空宇宙局エイムスリサーチセンター、メリーランド大学などからなる研究チームです。

参照

     

2005年9月16日    国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)