初期宇宙に "りっぱな" 銀河?

 誕生後8億年しかたっていない宇宙で、非常に重く、りっぱな銀河を発見したというニュースが届きました。誕生後8億年とは宇宙年齢の約5パーセントです。現在の宇宙を70歳の人間にたとえると、4歳のときということになります。それほど宇宙が幼かったときに、銀河系の約8倍もの質量をもつ星の大集団がすでに形成していたというのです。

 一般的に考えられている銀河形成のシナリオでは、小さな銀河が衝突合体を繰り返して、大きな銀河へと成長していきます。このシナリオでは銀河は徐々に成長します。ところが、今回の研究結果は、このシナリオでは説明できません。宇宙初期の段階ですでに重たい銀河ができていることを示しているからです。

 研究は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げたハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡による観測データを合わせて行われました。ハッブル宇宙望遠鏡は可視光から近赤外線をとらえる望遠鏡です。一方、スピッツァー宇宙望遠鏡は赤外線をとらえる望遠鏡です。見つかった銀河はハッブル・ウルトラディープ・フィールドにあります。この領域は、可視光や近赤外でとらえた人類にとって最も遠い宇宙で、スピッツァー宇宙望遠鏡でも長時間かけて観測されています。

 さて、見つかった銀河はハッブル宇宙望遠鏡の可視光の画像では見えませんが、近赤外の画像やヨーロッパ南天天文台のVLT(Very Large Telescope)に搭載された近赤外カメラの画像にはぼんやりと写っています。驚いたことに、スピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線カメラ(IRAC:Infrared Array Camera)の画像にははっきりと写っていました。このような特徴を示す銀河は遠方位置している可能性があります。

 距離をきちんと決めるには分光観測が必要です。しかし、この銀河は暗すぎて分光観測することができませんでした。そこで、異なる波長での明るさの違いを利用して距離を見積もるというテクニックが使われました。可視光から赤外までの撮像データがありますから、銀河が様々な波長でどのくらいの光を出しているのかがわかります。この明るさの比を使うと、距離を見積もることができるのです。

 また、IRACはハッブル宇宙望遠鏡のカメラよりも約5倍長い波長の光を観測します。すると、銀河の骨格を作っている、より古い星、より赤い星からの光を捕まえることができます。見かけの明るさがわかり、銀河までの距離がわかると、銀河にある星の総質量を概算することができます。

 以上のような観測や解析から、宇宙初期にある大きな銀河で、しかも比較的古い星で構成されているという解釈がもっともデータをよく再現するという結果になりました。もちろん、分光していないので、近くの天体だという可能性もないわけではありません。導かれた距離とIRACでの明るさを使って、銀河の質量を見積もってみると銀河系の約8倍でした。

 これは今日の宇宙でも大きな銀河として分類されるほどの重さです。それが、宇宙が生まれてからたった8億年で形成したというのですから驚きです。重い銀河が宇宙初期に短期間で形成したのですから、そこで起こった星形成は非常に活発だったでしょう。そこからのエネルギーはビッグバンの後に一度は冷えた宇宙を再加熱するのを手助けしたはずです。「国立天文台 アストロ・トピックス(146)」では、初期宇宙における銀河の個数が、一般的な理論モデルよりもずっと多く、銀河形成のシナリオは再考しなければならないかもしれないという話題を掲載しました。

 今回の観測結果もまた、現在考えられている一般的な銀河形成のシナリオには沿わないことになります。スッピッツァー宇宙望遠鏡の観測では、銀河系と同じくらいの重さの銀河やもっと軽い銀河も誕生後10億年たっていない宇宙で見つかってきています。それらの銀河にも比較的古い星があるらしいということもわかってきました。新しい観測結果が次々と発表されるなかで、それらを説明できる銀河形成や進化の描像が求められています。

 ここで紹介した研究はアストロフィジカルジャーナル2005年11月号・12月号に掲載されます。

参照

2005年10月11日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)