宇宙のベビーブーム、初期宇宙で見つかった多数の銀河

 初期の宇宙では銀河のベビーブームが起こっていたようです。フランスとイタリアの天文学者のチームは、宇宙が現在の10〜30パーセントの年齢だったころに、非常にたくさんの銀河があることを明らかにしました。これまで、観測的にも理論的にも、宇宙初期にはたくさんの銀河や星は生まれないと考えられていました。今回の発見で、いままで一般的に信じられてきた銀河形成や進化の概念は大幅な修正が必要になりそうです。

 銀河がどのように誕生し、進化したのかを明らかにするのは天文学の大きな目標です。そのためには、宇宙の様々な時期にある銀河の特徴を調べ、比較して、銀河進化の歴史を遡っていきます。遠くの銀河を調べるために、ディープサーベイが行われます。ディープサーベイとは、空のある部分を望遠鏡で長時間観測することです。はるか遠方の銀河から届くかすかな光を集め、その光を使って遠方銀河を調べるのです。深宇宙にある銀河からの光は、数十億年以上もかかって地球に届きます。つまり、私達が今見ている光は数十億年以上も前に銀河から発せられた光です。遙か彼方からの光を調べれば、銀河が数十億年以上前にどんな特徴をもっていたのかを探るてがかりとなります。天文学者にとって、遠くを見るとは昔にさかのぼることなのです。

 ある銀河までの距離がわかると、その銀河が今から何十億年前の宇宙空間にいたのかがわかります。銀河進化の歴史を遡るためには、様々な宇宙年齢、つまり、様々な距離にある銀河のサンプルを集めて、それらの特徴を比べてみればよいのです。

 ただし、言うは易く行うは難し。銀河までの距離を測定するためには、分光観測が必要です。しかし、遠くの銀河は暗く最先端の望遠鏡をもってしても、大変時間がかかる観測です。今回発表された研究では、ヨーロッパ南天天文台が持つ8.2メートル望遠鏡VLTに搭載されたVIMOS(Visible Multi-Object Spectrograph)という多天体分光器が使われました。この分光器を使うと、最大で約1000個の天体を同時に分光観測することができます。非常に効率よく分光データを取ることができるので、数年前なら何ヶ月もかかっていた観測データを数時間で取ることができるのです。

 観測チームは、VLTディープサーベイの観測領域から、赤い波長帯で24等(肉眼で見ることができる明るさより1600万分の1の明るさ)よりも明るい銀河、合計8000個を選びVIMOSで分光観測しました。そのうちの1000個の銀河は、ビッグバンから15億年から45億年(現在の宇宙年齢の10〜30パーセント)の時代のものであることが明らかになりました。これは、以前の研究が示していた個数よりも2倍から6倍も多いことになります。さらに、発見された銀河では、星形成が活発なこともわかりました。一年間に太陽質量の10〜100倍の星が誕生しているのです。つまり、宇宙初期で星や銀河のベビーブームが起きていたことになります。今までは、観測的にも理論的にも、宇宙の最初の約10億年の間は、星がそれほど多くは生まれないと考えられましたから、今回の研究結果により、銀河形成の描像は修正を迫られるようです。

 この結果は9月22日発行の科学雑誌ネイチャーで発表されました。

参照

2005年9月29日            国立天文台・広報室

訂正:「国立天文台 アストロ・トピックス (143) 誕生! 東アジア中核天文台連合(EACOA)」で
昨年よりEAMAのもとで「東アジア若手天文学会議(EAYAM: Young Astronomers Meeting)」を組織。昨年は台北、今年は日本(清里)で開催。
と、ありますが、
昨年よりEAMAのもとで「東アジア若手天文学会議(EAYAM: Young Astronomers Meeting)」を組織。前回は一昨年に台北で、次回は来年2月に日本(清里)で開催。
と、訂正・修正させていただきます。
なお、EAYAMのウェッブ・ページがあります。EAYAMに関心のある方はどうぞご覧下さい。

EAYAM2006: http://th.nao.ac.jp/~eayam/

また、「国立天文台 アストロ・トピックス (144)」および「同 (145)」で発行日の日付が抜けておりました。併せてお詫び申し上げます。

2005年9月29日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)