今月末に地球に接近する火星で、異変が捉えられました。10月中旬になって砂嵐(ダスト・ストーム)が発生し、拡大しているようです。
火星では、しばしば表面全体を覆ってしまうような大きな砂嵐が起こります。赤い火星が、巻き上げられた砂のために黄色く見えるので、黄雲(こううん)とも呼ばれます。火星には二酸化炭素が主成分の大気があります。その大気は非常に希薄で、地球の100分の1以下しかありません。さらに水が少ないため、大気は一般にからからに乾いた状態です。かなり強い風が吹き、砂を巻き上げると、その砂は上空で太陽の熱を吸収して暖まります。すると、まわりの大気も暖まりますので、ますます上昇気流を加速し、どんどん大規模になっていきます。地球のように水蒸気が含まれていれば、上昇した大気中の水が凝結し、降雨によって嵐のエネルギーが吸収され、嵐の発達にブレーキがかかるのですが、火星では、このブレーキ役がありません。そのため、一旦ことが起きると、とめどなく大きくなって、全面を覆うようなものに発達することがあるのです。
今回の砂嵐は、10月20日頃から地上の観測者によって認められるようになり、23日には、クリュセ平原から始まり、南半球中緯度でS字状に曲がりくねった砂嵐の雲となって発達している様子が日本のアマチュア天文家によって捉えられています。
2001年の接近時には6月末に、ヘラス盆地で発生し始めた砂嵐が発達し続け、7月中旬には全面を覆ってしまい、表面の模様を覆い隠すような大黄雲となりました。2003年の大接近の年の12月には、やはり今回と同じ地域で砂嵐が起こり、南半球中緯度を帯のようにぐるりと取り巻く規模となりましたが、全面を覆うには至りませんでした。
今後、砂嵐がどの程度発達するか予測が難しいところです。京都大学大学院人間・環境学研究科特別研究員の中串孝志(なかくしたかし)さんは「今回の砂嵐は、2003年12月のものと発生の場所も、火星の季節も一致している。そのときと同様に南半球を覆う程度まで発達する可能性があるのではないか」と述べています。
火星はちょうど地球に接近している時期ですので、運が良ければ、発達した砂嵐が天体望遠鏡を使えば見えるかもしれません。ただ、火星の視直径は20秒角以下ですから、大きな天体望遠鏡でも、観測条件が良くないと模様さえもなかなか見るのは難しいことは確かです。模様を見るには火星の地図をみながら地形を把握したほうがいいかもしれません。
ちょうど国立天文台では、「火星接近! 模様が見えるかな」キャンペーンを行っている最中ですので、ぜひトライしてみて下さい。
また、インターネットなどで、火星の画像が公開されていますので、それらを眺めて砂嵐の発達を追いかけてみるのもよいでしょう。
2005年10月27日 国立天文台・広報室