2005年も「火星大接近」

 2003年には火星が大接近し、たいへんな盛り上がりを見せました(国立天文台・天文ニュース(616)(645)(665) など)。今年も10月から11月頃にかけて火星が地球に接近します。

 地球は太陽のまわりを約365日で一周しています。一方、火星は地球の外側の軌道を、約687日で一周しています。火星よりも地球のほうが軌道を回る速さが速いため、地球は火星を追い越してひとまわりしてから、また火星に追いつくということを、繰り返しています。地球が火星に追いついてから、ひとまわりしてもう一度火星に追いつくまでには、平均すると約780日(約2年2ヶ月、会合周期といいます)かかります。

 地球の軌道はかなり円に近いのですが、火星の軌道は少しつぶれた楕円形をしています。また、会合周期がちょうど2年でなく余りの2ヶ月があるために、火星と地球が接近する位置は毎回ずれていきます。そのため、火星が太陽に近いときに地球との接近が起こると地球との距離が近くなり、火星が太陽から遠いときに地球との接近が起こると、地球と火星との距離はそれほど近くなりません。いちばん近い位置での接近で5500万キロメートル程度、いちばん遠い位置で接近が起こると、9900万キロメートルにもなり、接近距離にはおよそ2倍の差があります。

 火星の接近というと、最接近の日ばかりが話題になりますが、最接近前後の数週間は、地球と火星はほとんど同じ方向に並んで進んでいるため、しばらくは接近した状態が続きます。

 今回、火星は日本時間の10月30日12時頃に地球に最も接近します。前回の接近(最接近日2003年8月27日)は、火星の軌道が太陽にいちばん近づく場所で起こったために、5576万キロメートルという大接近となりました。今回は、そこまで近くはありませんが、それでも6942万キロメートルまで接近します。次回以降しばらくは、火星の軌道が太陽から遠いところでの接近が続き、今回より近い距離で火星が地球に接近するのは、2018年となります。

 前回2003年の接近では、視直径(見かけの直径)は最大25.13秒角(1秒角は3600分の1度)まで大きくなりました。今回の接近でも、視直径は20.18秒角と、かなり大きく見えます。

 今回も火星は地球にかなり接近しますから、望遠鏡をお持ちの方は模様の観察にチャレンジしてみてください。「かなり接近する」と言っても、望遠鏡で火星を見ると、ずいぶん小さいという印象を受けるかもしれません。今回の接近では火星の視直径は20秒角をわずかに超えますが、それでも、木星の視直径の約半分程度だということには注意してください。

 望遠鏡で見るときには、倍率を高くすればするほど模様が細かく見えるようになるのかというと、そうではありません。望遠鏡の性能は口径(レンズや鏡の直径)によってほぼ決まり、それ以上倍率をかけても天体の像が暗くぼけるばかりで細かい部分が見えてこない、限界の倍率というものがあります。一般的には、口径をセンチメートルで表した数字に20をかけた程度が限界の倍率といわれています。

 どんな望遠鏡を使って火星を見るにしても、最初は模様がほとんど見えないかもしれません。望遠鏡を通して模様を見ると、大望遠鏡が撮影した写真とは違って、模様は大変淡く見えます。その淡い濃淡を捉えるためには目を慣らすことが必要です。小望遠鏡でも、模様が見えないからといってすぐにあきらめず、何度も繰り返してチャレンジしてみましょう。そのうちに見えるようになるはずです。

 また、大気の細かい屈折のために、火星の表面が、水の中を覗いているように揺れて見えることも、模様を見えにくくする原因のひとつです。しばらく望遠鏡を覗いていると、ある時ほんのわずかの間大気の揺れが小さくなることがあります。天文施設の望遠鏡では、ひとりであまり長い間望遠鏡を覗いているわけにいきませんが、自分の望遠鏡で火星を見ているときには、このような瞬間を待ってみることも、模様を捉えるのに効果があるかもしれません。(天体観察用の双眼鏡は倍率が低いため、火星の模様を見るのは難しいでしょう。)

 国立天文台では火星が最も接近する期間に「火星接近!模様が見えるかな」というキャンペーンを企画しています。

 10月29日の夜から11月7日の朝までの間に火星を望遠鏡で観察して、表面の模様が見えたかどうかを、報告ページを使って国立天文台に報告してください。携帯電話を使って、火星を見たその場で報告することもできます。報告をいただいた方には、ささやかなプレゼント画像を用意しています。

 キャンペーン期間以前に見たときのことを報告していただいても結構ですし、何度も見た方は何度も報告していただいて構いません。

 報告をいただく項目は、「見た日付」「模様が見えたかどうか」「どんな望遠鏡で見たか」「都道府県」「今まで何回火星の模様を見たか」などです。

 望遠鏡が手近にない方は、各地の天文施設で、施設の望遠鏡を一般の方に公開するなど、火星接近に関連したイベントが開かれるようです。この機会に、身近な天文施設が催すイベントに足を運んでみてはいかがでしょうか。

参照

2005年10月20日            国立天文台・広報室

転載:ふくはらなおひと(福原直人)