2022年は日本から観測可能な明るい新星は反復新星の U Sco 以外出ていませんでしたが、注目に値する天体が発見されました。元々ミラ型変光星として知られていたGDS_J1830235-135539 (あるいは 2MASS J18302347-1355421) という天体で、今から約1 年半ほど前 (2021 年 4 月頃) から共生星新星という新星現象が発生しているようです。この現象は今後も長きに渡って観測出来ると予想されます。
愛知県岡崎市の山本稔(やまもとみのる)さんが、2022 年 3 月にこの天体が緩やかに急増光していることに気づかれ、VSOLJ (初出は vsolj-obs 77550) や各種 SNS 等にて報告されました。この天体は元々、the Bochum Galactic Disk Survey (GDS) によって発見された変光星であり、the OGLE Collection of Variable Stars や Gaia Data Release 3 にはミラ型星として登録されていた天体だったため、今回の新星爆発の以前も、約 1 年ごとの周期で増減光を繰り返していたことが確認されています。しかし今回の増光は、この周期よりも長い時間をかけて、特に青い波長帯 (ASAS-SN の g バンド、ATLAS の cyan フィルターなど) では過去の増減光の変光範囲を超えて明るくなっていたため、ミラ型変光星としての増光とは異なる現象が発生している可能性が示唆されるものでした。
これを受けて、2022 年 9 月 20.43 日 (世界時) に京都大学岡山天文台 3.8 m せいめい望遠鏡にて分光観測が行われました (Taguchi et al., ATel #15623)。その結果、中性水素のバルマー系列の強い輝線や、中性のヘリウム・酸素や 1 階電離した鉄の輝線が検出され、この増光現象が共生星新星であることが確認されました。この天体の2022 年 9 月 20 日のスペクトル、それまでの光度曲線 (Taguchi et al., ATel #15623 からリンクされているものと同じ) は以下からご覧いただけます。
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~kentagch/atel/GDS_J1830235-135539.pdf
共生星新星 (symbiotic nova) とは、白色矮星と赤色巨星からなる連星系 (共生星、symbiotic star) で発生する現象です。物理的には通常の新星と同じく、伴星から白色矮星表面に降着した物質が爆発的な原子核反応を発生させることで発生すると考えられています。今回の天体は、元々ミラ型変光星として知られていた赤色巨星が、実は白色矮星との連星系であり、現在は白色矮星の方が共生星新星によって赤色巨星よりも明るくなってしまったようです。
共生星新星の一部には進化が極めて緩やかなものがあります。そのような過去の共生星新星の代表例としては、RR Tel、V1016 Cyg、PU Vul、V4368 Sgr などが挙げられます。本田実 (ほんだみのる) さんと桑野義之 (くわのよしゆき) さんが 1978-1979 年に発見された PU Vul や、和久田実 (わくだみのる) さんが 1994 年に発見された V4368Sgr は現在も約 13 等 (V バンド、以下同じ) ですし、1964 年に発見された V1016Cyg は現在も約 12 等です (vsolj-obs 79437)。今回の天体も、現在までの増光が緩やかであったため、今後も 10 年以上に渡って観測が可能だと予想されます。
これら一部の共生星新星の進化が緩やかなことは、物理的には白色矮星の質量が軽いことと関係していると考えられています。反復新星として有名な RS Oph や T CrB も実は共生星です (共生星反復新星、symbiotic recurrent nova) が、白色矮星の質量はずっと重いと考えられています。共生星新星については、vsolj-news 066 もご参照ください。
Gaia Data Release 3 によると、この天体の座標は
赤経: 18時30分23.466秒 赤緯: -13度55分42.17秒
です (2000 年分点)。
森山雅行 (もりやままさゆき) さんの 9 月 29 日の観測 (vsolj-obs 79437) によると、この天体は 12.3 等 (V バンド) でした。今後の明るさの変化などが注目されます。
今後の VSOLJ への観測報告の際は、GCVS名がつくまでは GDSJ1830235-135539 の名前をお使い下さい (GDS と J の間にアンダースコアは不要です)。
2022年10月 4日
参考文献
- K. Taguchi et al. (2022), ATel #15623
- vsolj-obs 77550, 79437
- vsolj-news 066
- vsnet-alert 26942