長周期食連星 γ Per の食が始まった

著者:大島 修(岡山理科大学)

 今月11月17日に周期14.6年の明るい長周期食連星系であるペルセウス座ガンマ星(γ Per; V=2.93)の食が始まりました。Vバンドで0.3等程度の減光、食の継続時間は約10日間です。減光幅は、BとUでそれぞれ0.6等と0.9等と短波長ほど大きくなります。

 以下の予報は、今回と前回の1990年の観測を合わせて、光度曲線が下向きの台形であると仮定した場合の接触時刻(日本時間)です。実際には、光度曲線は台形ではなく角がとれたものですから、第1と第3接触は数時間早く始まり、第2と第4接触は数時間遅く水平に移るはずです。

第1接触 11月17日03h10m頃(今回の観測から見積り)
第2接触 11月18日10h48m頃(同上)
第3接触 11月25日19h19m頃(過去の観測から推定)
第4接触 11月27日08h01m頃(同上)

 今回の食の観測の意義は、まず、測光観測から連星の軌道周期を正確に決定できることです。実は γ Perは明るい星にも関わらず、後半に述べるような事情から、食はまだ1990年の1回しか測光されていません。分光観測からは周期14.593±0.005年と1日以上の誤差を持つ値しか得られていません。前回の食は2005年4月に起こっていますが観測条件が悪く測光データがありません。そのために今回が好条件で観測できる食の2回目となり、1990年の食の日時と今回の食の日時の間隔から、分光観測よりも高い精度で軌道周期を決めることができます。食の中央の時刻の測定は、観測データとモデル計算による光度曲線のフィッティングで求めます。そのために、4つの接触付近のデータだけでなく、前後の食外の値も含めた食全体の全観測点が意味を持ちます。いずれにしても、今回の観測が成功すれば、次回以降の食は時分までの精度で予報が可能になります。その意味でも今回の観測の意義が理解できると思います。

 次に、食の底は平らか(変動があるか)どうかも注目されます。1990年の観測では平らであるはずの底の途中で増光している観測データが複数ありましたが、リアルな現象なのか観測誤差なのか、これまでは判明していません。今回、同じような現象が観測されるでしょうか。

観測に際して

 対象天体が明るいので、比較星も明るくなければ測光精度がかなり悪化します。比較星には2度ほど離れたτ Per(V=3.96 これも周期4年の食連星ですが今年は食を起こしません)をお勧めします。色もよく似ているので低高度による系統誤差も生じにくいです。私宛に報告を下さる場合は、差等級でお願いします。(もちろん標準システムへの変換した値が有効に使われます。)

 すべてのバンドでの観測が重要です。主星のスペクトルはG型なので、短波長の測光バンドほど減光量が大きく、感度が低くCCDが苦手とするUバンドのデータ も貴重です。

この連星系のこれまでの観測

 この連星系は、その複合したスペクトルから分光連星であることは20世紀前半にはわかっていました(文献1)が、スペックル干渉計による観測から、軌道傾斜角が90.23度と軌道をほぼ真横から見ているために、食を起こす可能性が高いと指摘されました(文献2)。このような観測には、地球上の全経度での協力が欠かせませんから、ケンブリッジ天文台のR.F.Griffinが国際キャンペーンを行った結果、1990年の食で、約10日間の皆既食が観測され食連星であることが初めて明らかになりました(文献3)。その観測キャンペーでは日本国内からも3名のアマチュアが参加し、光電測光観測により確定していなかった食の始まりや数少ないUバンドでの測光など貴重なデータを提供し、スカイアンドテレスコープ誌に紹介されるなど活躍しました(文献4)。

γ Perの謎

 年周視差が比較的大きいのでこの系までの距離は正確に求まります。2005年の2回めの食のCCDによるスペクトル観測から、完全に分離した2つの成分星ごとのスペクトルが得られました。それらの結果、G型巨星の質量と光度とも通常のG型巨星と比べて大きすぎる値を示していることがわかりました。さらに、この連星系の2つの成分星が同時に生まれたとすると、HR図上での理論的な進化経路と合わず、G型巨星の方がA型主系列星より2.5倍若くなければなないこともわかりました(文献5,6)。これらを説明する仮説としては、もともと3重連星系として生まれたものが、第3体が合体して現在のG型星になったというものがあります。さてこれが正しいのかどうか、あなたならどうやって証明しますか。

2019年11月22日

参考文献

(1)McLaughlin, D. B. 1938 ApJ.88.358
"A Note on the Spectrum and Radial Velocity of γ Persei"
(2)Popper, D.M. and McAlister, H.A. 1987 AJ 94, 700.
"Gamma Persei-Not Overmassive But OverLuminous"
(3)Griffin, R.F., et al. 1994 IAPPP.57.31
"The Eclipse of Gamma Persei"
(4)Griffin, R.F. 1991 S&T.81.598G
"Gamma Persei Eclipsed!"
(5)Pourbaix, D. 1999 A&A.348.127
"Gamma Persei: a challenge for stellar evolution models"
(6)Griffin, R.Elizabeth 2007,IAUS.240.645
"γ Per: Bright, but Ill-Understood"

γ Perの光度曲線

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