群馬県嬬恋村の小嶋正(こじまただし)さんが7月13日にいて座の中に発見した増光天体は、新星ではなく重力マイクロレンズ現象の可能性があることが分かりました。小嶋さんは2018年7月13.494日(世界時、以下同様)に焦点距離200mmのレンズとデジタルカメラを用いて撮影した画像から、10.8等に増光している天体を発見しました。小嶋さんの観測によるとこの天体は7月2日に撮影した画像には写っておらず、またこの天体の位置はUSNOカタログのRバンドで15等の天体の位置とほぼ一致することから、最近になって4等級も明るくなった天体であることが分かりました。この天体の位置は
赤経:18時01分01.84秒 赤緯:-29度51分23.8秒 (2000.0年分点)
で、いて座γ星の近くです。
超新星のサーベイを行なっているAll-Sky Automated Survey for Supernovae(ASAS-SN)の観測によると、この天体はもともと14.6等ほどでしたが7月4日には13.9等、7日に13.3等、10日に12.8等、11日に12.5等、12日には12.0等と、小嶋さんによる発見以前から明るくなり始めていたことが明らかになりました。さらに、ASASSNによって観測された増光の様子が重力マイクロレンズ現象による明るさの変化と矛盾しないものであることが分かりました。
重力マイクロレンズ現象は、星と私たちの間にある別な天体が、その星とみかけの方向がほぼぴったりと重なった場合に、背後にある星からの光が私たちとの間にある天体の重力によって曲げられ集光されることで、星が明るくなったように見える現象のことです。銀河系の中心方向の星や、大小マゼラン銀河の星の観測から、これまでにも暗い例は数多く発見されていますが、小望遠鏡でも見ることができる明るさのものは、これまで知られている中では2006年10月に多胡さんがカシオペヤ座の中に発見したもの(7.5等; vsolj-news 162)や、2017年10月に小嶋さんがおうし座の中に発見したもの(10.8等; vsolj-news 335)など数えるほどしかなく、非常に珍しい現象と言えます。
これまでの観測によると、この天体は7月14日には10.7等と発見時とほぼ同じ明るさでしたが、15日には11等台まで暗くなったことが分かりました。重力マイクロレンズ現象であれば、10日ほどで14等程度まで暗くなってゆくと思われ、今後の明るさの変化が注目されます。
2018年7月16日