小嶋さん、ヘリウム激変星が起こした待望の矮新星アウトバーストを発見

著者:磯貝桂介(京都大学)

 待ち焦がれる時間は、いつだって長く感じるものです。待ち遠しいものは世の中に色々とありますが、天体現象もそんなもののひとつではないでしょうか。いつか矮新星アウトバーストを起こすかもしれないと思われながら早13年、ついに増光している姿が発見されました。

 激変星とは、白色矮星を主星にもつ近接連星系のことで、連星の軌道周期(公転周期)は数時間程度です。伴星はロッシュローブを満たしているため、伴星から主星へとガスが流れ混んでいきます。すると、主星の周りには降着円盤と呼ばれるガス円盤が形成されます。この円盤が突発的に増光する現象を、矮新星アウトバーストと呼びます。

 通常、激変星の伴星は低温の星(晩期型の主系列星など)ですが、中には変わった伴星を持つ天体もあります。その1つがヘリウム激変星(りょうけん座AM型星)です。伴星表面の水素は様々な理由からはがれ落ちており、伴星はヘリウムが豊富な高密度天体となっています。一部のヘリウム激変星は進化の末、最終的にIa型超新星や、その亜種「.Ia型超新星」になると考えられていることから、天文学における最重要天体の1つです。しかし、近年まで発見数が少なかったため、観測的な研究はあまり進んでいません。

 ヘリウム激変星の大きな特徴の1つが、極端に短い軌道周期(公転周期)です。軌道周期が2時間未満の激変星は、重力波放射によって角運動量を失うので、次第に連星間距離が縮み、軌道周期は短くなっていきます。しかし、伴星から主星へとガスが流れこむと、角運動量保存則により逆に軌道周期は長くなります。基本的に、この2つの効果によって軌道周期は変化していきます。その結果として、通常の激変星の軌道周期は、最も短い天体でも80分程度です。しかし、ヘリウム激変星は伴星が高密度であるために重力波放射の効果が強く、通常の激変星よりも短い軌道周期をとることが可能です。

 そんなヘリウム激変星の中でも最も極端な天体、かに座HM星の軌道周期は、なんとたった5分です。この天体は重力波放射によって少しずつ近づいており、最終的に合体すると考えられています。もしかしたら合体とともに超新星爆発を起こすかもしれません。非常に待ち遠しいですが、遠い未来の話です。

 そのような珍しい連星の仲間 SDSS J141118.31+481257.6 (以降J1411)は、2005年にスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)によって発見されました。SDSSが撮影したスペクトルから、J1411は水素を失った激変星であること分かりました。軌道周期は46分で、先ほど例にあげた天体に比べると長く感じてしまいますが、通常の激変星の最短周期80分に比べ、非常に短い周期を持っています。

 かくして発見されたJ1411ですが、過去の写真乾板などの資料を漁っても増光現象は見つからず、この特異な激変星が激変するのを、世界の研究者たちは待ち焦がれていました。

 それから13年経った2018年5月19日、群馬県の小嶋正さんは、19.7等だったJ1411が12.4等まで増光しているのを発見しました。これはまさしく、待望の矮新星アウトバーストです。

 ただちに国際協力による追観測が行われ、アウトバーストの詳細が報告されました。その結果、今回J1411が示したのは、数週間に渡って増光が続く大規模なアウトバースト「WZ Sge型スーパーアウトバースト」であると確認されました。WZ Sge型スーパーアウトバーストの初期には、早期スーパーハンプと呼ばれる、軌道周期とほぼ同じ周期の微小変動が観測されます。軌道周期が既知のヘリウム激変星で早期スーパーハンプが観測されたのは今回が初めてですが、確かに軌道周期と誤差の範囲で一致しました。

 これから数日で早期スーパーハンプは終わり、続いて通常のスーパーハンプが出現すると予想されます。通常のスーパーハンプの周期変化を詳しく調べることで、わたしたちは連星の質量比を求めることが出来ます。連星質量比は、連星の進化シナリオを研究する上で最も重要な情報の1つです。ヘリウム激変星がどのように生まれ、どのように進化し、どの程度の割合で超新星爆発を起こすか、といった連星進化の研究は、このような観測の積み重ねによってこれから明らかになっていくことでしょう。

 これからの研究の進展が非常に楽しみな分野です。

 今回紹介した天体の座標は以下の通りです。

赤経 14時11分18.32秒
赤緯 +48度12分57.5秒 (2000.0年分点) 

2018年5月22日

参考文献

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