新星の捜索を熱心に行なっている群馬県の小嶋正(こじまただし)さんによって、おうし座の中に発見された変光星 TCP J05074264+2447555 は、その後の調査により、非常に珍しい明るい重力マイクロレンズ現象であることが明らかになりました。小嶋さんは2017年10月31.734日(世界時、以下同様)に焦点距離135mmのレンズとデジタルカメラでおうし座を撮影した画像から、10.8等に増光している天体を発見しました。この天体は、9月2日と10月25日に撮影した画像にもそれぞれ13等と11.7等で写っていること、この天体の位置にはUSNOカタログにRバンドで13.6等の天体あることから、最近になって明るくなった天体であることが分かりました。
この天体の位置は
赤経:05時07分42.72秒 赤緯:+24度47分56.3秒 (2000.0年分点)
です。
超新星のサーベイを行なっているAll-Sky Automated Survey for Supernovae(ASAS-SN)の観測によると、この天体はもともと14等ほどでしたが1ヶ月ほど前からゆっくりと増光を始め、10月19日には13.2等、発見直前の10月28日から30日には1日に0.2等のペースで急速に増光していたことが明らかになりました。星がこれほど明るくなるということは、何かしらの爆発現象が起きていることが予想されます。ところが、この天体では増光の前後で色の変化がないこと、国立天文台岡山天体物理観測所などで撮られたこの天体のスペクトルは、通常のF型主系列星のものであることが分かりました。また、ガンマ線バースト観測衛星のSwift衛星に搭載されているX線望遠鏡と紫外・可視望遠鏡による観測で、この天体の位置にX線で明るくなっている天体は存在せず、紫外線での増光幅と可視光線での増光幅がほとんど同じであることが分かりました。
色やスペクトルが一切変化せずに明るさだけが増加する、という現象は、星と私たちの間にある別な天体が、その星と重なった時に起こります。星からの光が手前にある別な天体の重力によって曲げられることで明るくなるのです。このような現象は、重力マイクロレンズ現象と呼ばれ、銀河系の中心方向の星や、大小マゼラン銀河の星をターゲットにしたプロの天文学者による捜索が行なわれており、これまでにも暗い例は数多く発見されています。しかし、11等級という明るさのものは、これまで知られている中では2006年10月に多胡さんによってカシオペヤ座の中に発見され7.5等まで明るくなった重力マイクロレンズ現象(vsolj-news 162)に次ぐ明るさで、非常に珍しい現象であると言えます。
これまでの観測によると、この天体は11月1日ごろに11.5等ほどまで明るくなった後減光を始めており、今後1ヶ月程度かけて元の明るさに戻ってゆくと思われます。しかし、手前にあるレンズ天体が惑星を持っている場合には、その惑星の重力レンズ効果によって、減光の途中で小規模な増光が起こる可能性もあり、今後の詳細な観測が望まれます。
2017年11月4日
参考文献
- CBAT "Transient Object Followup Reports" TCP J05074264+2447555
- Maehara 2017, ATel #10919
- Sokolovsky 2017, ATel #10921
- Jayasinghe, et al. 2017, ATel #10923