山本さんがへびつかい座に新星を発見

著者 :前原裕之(国立天文台)

3月の明け方の東の空には早くも夏の星座が見えるようになっています。そんな夏に見やすい星座の1つで、私たちの天の川銀河の中心方向に見えるへびつかい座の中に新星が発見されました。新星を発見したのは愛知県岡崎市の山本稔さんで、3月11.8012日(世界時、以下同様)から11.8183日の間に焦点距離135mmのレンズとデジタルカメラを用いて撮影した4枚の画像から、10.6等の新天体を発見しました。この天体を含む領域は重力マイクロレンズ現象による増光を探索しているOGLEによって観測されており、OGLEによって3月6.36759日に撮影された画像にはこの天体は写っていませんでしたが、8.31853日の画像には既にIc等級で12等ほどで写っていたことが分かりました。また、群馬県の小嶋さんが3月7.817日に撮影した画像には13等以下でこの天体は写っていませんでしたが、9.827日に撮影した画像には12.6等で写っていたことが分かりました。これらの観測から、この天体は3月7-8日の間に増光してきたと考えられます。千葉県の清田さんの行なった確認観測によると、この天体の位置は

赤経:17時35分50.41秒
赤緯:-29度34分23.95秒  (2000.0年分点)

です。

3月12.98日にはインドのアブ山 (Mount Abu)にある1.2m望遠鏡を用いてこの天体の近赤外域の分光観測が行なわれ、P Cygプロファイルをもつ水素や炭素、酸素などの輝線が見られることが分かりました。水素のパッシェンβ輝線やブラケットγ輝線のP Cygプロファイルでは、吸収線が輝線に対して秒速800-1000km青方偏移しており、これらのスペクトルの特徴から、この天体が古典新星であることが判明しました。

清田さん確認観測やその後vsolj-obsメーリングリストに報告された広沢さんの観測データによると、この天体はVバンドでは11等ほどの明るさですが、Icバンドでは8等ほどで赤い色をしていることが分かりました。また、岡山県の藤井貢さんやキットピーク MDM天文台の2.4m望遠鏡による可視光域の分光観測では、P Cygプロファイルをもつ水素のバルマー系列や1階電離した鉄の輝線などの増光初期の古典新星に特徴的なスペクトルを示すことに加えて、星間吸収によるナトリウムの強い吸収線がみられることが分かりました。多色測光の結果や分光的な特徴からこの新星は強い星間吸収を受けていると考えられます。分光観測によるとこの新星は増光初期とみられ、今後の明るさの変化が注目されます。

参考文献

2016年3月15日

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