共生星新星ペガスス座AGがおよそ150年ぶりに増光

著者:前原裕之(国立天文台)

ペガスス座AG(以下AG Pegとします)は「共生星」と呼ばれる、白色矮星と赤色巨星から成る連星系で、19世紀後半に6等まで明るくなり、その後100年以上かけて非常にゆっくりと暗くなった新星として知られている天体です。最近ではこの天体は連星の公転(公転周期約825日)による8.5等から9等ほどの間の明るさの変化がみられていました。今年の6月9日まではこの天体は8.5等ほどの明るさで観測され、特に変わったところありませんでした。ところが、その4日後の6月13日にはこの天体は7.7等まで明るくなっていたことが明らかとなりました。これほどの明るさになったのはこの天体の観測史上1930-1940年代以来のことです。

ここで、19世紀後半に起こったAG Pegの増光について簡単に紹介しておきましょう。この星は19世紀末に水素のバルマー系列の輝線を示す天体であることが見出されるまで、特に注目されていませんでした。その後、1916年にAnnie J. Cannon(女性天文学者で、E. C. Pickeringとともに現在も使われている恒星のスペクトル分類「ハーバード分類」を確立したことで有名)によって、この天体のスペクトルにみられる水素のバルマー系列の輝線が青方偏移した吸収線を伴なう「P Cygniプロファイル」を示すことが発見され、特異な天体であることが明らかになりました。さらにKnut Lundmarkの研究によると、この星の明るさは1821年と1841年には9等でしたが、1855年には7.7等、1861年には7等、1870年には6.3等にまで20年程度かけて明るくなった後、1905年に6.7等、1907-1908年には8等以下まで暗くなり、1920年には6.8等だったことが明らかになりました。

今日までの観測から、この天体は1920年代に7等、1960年ごろに8等、1990年代の後半にはもとの明るさの9等ほどに戻り、100年以上かけて暗くなってきたことが明らかになっています。19世紀後半に見られたこの天体の増光は、連星を成している白色矮星と赤色巨星のうち、白色矮星の表面に積もった水素の層で暴走的な核燃焼が生じることで引き起こされたものであり、非常にゆっくりとした増光や減光を示す新星と考えられています。

今回の増光発見の後に行なわれた観測によると、この天体は現在7.4等前後の明るさで、口径5-7cm程度の双眼鏡があれば簡単に見えるほど明るくなっています。この天体の歴史的に明るい姿を観測する絶好の機会と言えるでしょう。19世紀後半に起きた前回の増光では、明るくなり始めてから約70年も後になって過去に明るくなっていたことが判明しましたが、今回はまだ増光が起きた直後と考えられるため、今後の明るさの変化やそれに伴なうスペクトルの変化など、詳細な観測やそれに基づく研究の結果が楽しみな天体です。

参考文献

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