櫻井さんがへびつかい座に新星を発見

著者 :前原裕之(国立天文台)

今年も桜の開花のニュースを耳にする季節になり、明け方になると夏の星座が空高く見えるようになりました。私たちの天の川銀河の中心の方向には新星が数多く発見されており、今年に入ってからもさそり座に1つ(VSOLJニュース315)といて座に2つ(VSOLJニュース316)の新星が発見されています。そうした天の川銀河の中心方向に見える星座の一つであるへびつかい座に新星が発見されました。新星を発見したのは茨城県の櫻井幸夫(さくらいゆきお)さんです。櫻井さんは3月29.766日(世界時、以下同様)に焦点距離180mmの望遠レンズで撮影した画像から、12.2等の新天体を発見しました。この天体は千葉県の清田さんや野口さんなど国内外の複数の観測者によって確認観測が行なわれました。清田さんの観測によると、この天体の位置は

赤経:17時29分13.42秒
赤緯:-18度46分13.8秒

です。この天体の位置には前日の28日に櫻井さんと群馬県の小嶋さんがそれぞれ撮影した画像には12.5等よりも明るい天体は写っていませんでしたが、27日にオーストラリアのR. Kaufmanさんが撮影した画像には13.7等で写っており、発見の少し前から明るくなりつつあったと考えられます。

この天体の分光観測は岡山県の藤井さんや岡山県井原市の美星天文台の綾仁さん、オハイオ州立大学のグループによってそれぞれ行なわれました。この天体のスペクトルには水素のバルマー系列の輝線や中性のヘリウムや酸素の他、電離した炭素や窒素の輝線がみられ、多くの輝線は短波長側が吸収線となるP Cygプロファイルと呼ばれる形状をしていることが分かりました。これらのスペクトルの特徴からこの天体が古典新星であることが判明しました。

この天体のスペクトルにみられたP Cygプロファイルの吸収線は、輝線よりも速度に換算して秒速2000kmほど青方偏移しており、これは新星爆発によって放出された物質が外側へ広がる速度に対応していると考えられます。一般に、爆発で放出された物質が外へ広がる速度が比較的速い部類の新星は、新星爆発初期のスペクトルにヘリウムや窒素の輝線が見られることが多く("He/N-type nova")、一方で速度が遅い部類の新星は一階電離した鉄の輝線が見られることが多い("FeII-type nova")ことが知られています。また、新星の中には時間とともにFe II-typeからHe/N-type(あるいはその逆)とスペクトルの様子が変化する天体も知られています。この新星は通常のヘリウム/窒素の輝線がみられる新星に比べると膨張速度が遅いとの指摘もあり(ATel #7339)、今後のスペクトルや明るさの変化が注目されます。

参考文献

新星の画像

新星のスペクトル

2015年4月3日

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