小嶋さんがさそり座に新星を発見

著者:前原裕之(国立天文台)

 さそり座やいて座は私達の銀河系の中心方向にあたり、これまでに多数の新星が発見されています。これらの星座は一般的には夏に見やすい星座ですが、2月ごろになると、明け方の南東の低い空に見えるようになってきます。そんな明け方に見えるようになったばかりのさそり座に新星が発見されました。発見者は群馬県の小嶋正(こじまただし)さんです。

 小嶋さんは焦点距離150mmのレンズとデジタルカメラを用いて2月10.827日(世界時、以下同様)に撮影した画像から8.2等の新天体を発見しました。発見の報告を受けて、千葉県の野口さんや山口県の吉本さん、茨城県の清田さん、宮城県の遊佐さんなど国内外の多くの観測者によって確認観測が行なわれました。遊佐さんの観測によると、この天体の位置は

赤経:17時03分26.17秒
赤緯:-35度04分17.8秒   (2000.0年分点)

です。この天体の位置には可視や近赤外線の天体のカタログに爆発前の天体と思われる天体があり、特に近赤外線では爆発前から12-13等と比較的明るい天体だったことが分かりました。

 この天体の分光観測はチリのセロ・トロロ天文台の口径1.5m望遠鏡や、岡山県井原市の美星天文台の口径1m望遠鏡によって2月13日に行なわれました。この天体のスペクルには幅の広い水素のバルマー系列の輝線の他、ヘリウムや酸素、一階電離した鉄の輝線がみられることが分かりました。また、Hα、Hβ輝線には速度にして秒速-2300、-3200、-4200kmにそれぞれ対応する波長が吸収線となる"P Cygプロファイル"がみらがみられることも分かりました。これらのスペクトルの特徴からこの天体が古典新星であり、新星爆発によって比較的速い速度でガスが膨張する部類の新星であることが判明しました。

 また、この天体は可視光だけでなくX線や電波でも明るくなったことが観測されました。2月15.5日と16.3日にはガンマ線バースト観測衛星のSwiftに搭載されているX線望遠鏡によってこの天体からのX線が検出された他、14.5日にはVLAによって周波数4.55-36.5GHzの電波でもこの天体からの放射が観測されました。

 この天体の位置には近赤外線では増光前から比較的明るい天体があったことから、この天体は白色矮星と赤色巨星から成る共生星と呼ばれる連星系で、白色矮星の表面に積もった水素が不安定な核燃焼を起こすことで新星爆発を起こす「共生星新星」と呼ばれる天体であると考えられます。このような天体では、連星系中の赤色巨星からゆっくりとガスが放出されており、連星系全体がガスに包まれていると考えられています。共生星中の白色矮星で新星爆発が起こると、爆発によって生じる高速(秒速数千km)で膨張するガスと、爆発前から連星系の周辺に存在する赤色巨星から放出された速度の遅いガスが衝突して、X線や電波が放射されることが知られています。この天体の新星爆発直後からX線や電波が観測されたことも、共生星新星であることを支持する観測結果と言えます。

筆者による観測ではこの天体は2月20日には11等程度まで暗くなっており、ガス膨張速度も速いことから、暗くなるのが速い新星であると考えられます。分光観測によると、Hα輝線は青側と赤側にもピークを示す構造をしていることが報告されており、今後どのような変化をみせるのか楽しみな天体と言えるでしょう。

2015年2月21日

参考文献

新星の画像

新星のスペクトル

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