西山さんと椛島さんがさそり座とはくちょう座に新星を発見

前原裕之(東京大学木曽観測所)

各地の桜が開花したりや満開になったというニュースを耳にする季節になり、明け方4時くらいにはもう夏の星座が空高く見えるようになりました。夏に見やすい星座のさそり座とはくちょう座の中に新星が相次いで発見されました。これら2つの新星を発見したのは、3月8日にケフェウス座に別な新星を発見したばかりの西山さんと椛島さんのチームで、お二人にとっては今年に入って3個目の新星発見となります。

○さそり座新星2014

福岡県久留米市の西山浩一(にしやまこういち)さんと佐賀県みやき町の椛島冨士夫(かばしまふじお)さんのチームは、3月26.8487日(世界時)にさそり座とへびつかい座の境界付近を撮影した画像から、10.1等の新天体を発見しました。また、発見直後に口径40cmの望遠鏡を用いてこの天体の確認観測を行ないました。西山さんと椛島さんの観測によると、この天体の位置は

赤経: 17時15分46.83秒
赤緯: -31度28分30.3秒   (2000.0年分点)

です。この天体は千葉県の清田さんや野口さん、群馬県の小嶋さん、宮城県の遊佐さんらによって確認観測が行なわれ、比較的赤い色をしていることが報告されました。

この天体の分光観測は、3月27日に岡山県井原市の美星天文台の口径1mの望遠鏡で行なわれ、この天体のスペクトルには幅の広いHα輝線の他、ヘリウムや酸素の輝線がみられることが分かりました。これらの分光的な特徴により、この天体が爆発初期の古典新星であると判明しました。Hα輝線の幅は速度に換算すると秒速7000kmにもなり、新星爆発によって周囲に広がる物質の速度が大きいことを示しています。

この新星は可視光だけでなく様々な波長での観測も行なわれています。ガンマ線バースト観測衛星のSwiftに搭載されているX線望遠鏡を用いた観測によると、発見の7-8時間後の観測でこの新星からのX線が検出されました(Kuulkers et al.2014, ATel #6015)。また、近赤外域の分光観測によると、この新星のスペクトルはV407 CygやRS Oph, V745 Scoといった、共生星でかつ新星爆発を起こした天体のものと似ていることが分かりました(Joshi et al. 2014, ATel #6032)。膨張速度が大きいことや共生星タイプの新星に似ていることなど、今後の観測結果が楽しみな天体と言えます。

○はくちょう座新星2014

西山さんと椛島さんのチームは、3月31.790日にはくちょう座を撮影した画像から10.9等の新天体を発見し、直後に口径40cmの望遠鏡を用いてこの天体を確認しました。お二人の確認観測によると、この天体の位置は

赤経: 20時21分42.34秒
赤緯: +31度03分29.6秒   (2000.0年分点)

です。この天体はイタリアのG. Masiさんらによって口径43cmの望遠鏡とCCDカメラによる確認観測が行なわれた他、オーストリアのW. VollmannさんやドイツのP. Schmeerは、口径20cmの望遠鏡による眼視観測(望遠鏡を目で覗いて観測)でこの天体を確認観測を行ない、この天体が11等ほどの明るさであることを報告しました。

この天体の分光観測は、イタリアのパドヴァ天文台のグループや兵庫県立大学西はりま天文台の口径2m なゆた望遠鏡、岡山県井原市の美星天文台の1m望遠鏡の他、岡山県の藤井さんによってそれぞれ行なわれました。この天体のスペクトルには水素のバルマー系列や一階電離した鉄、中性酸素の輝線がみられることが分かりました。また、これらの輝線は青側が吸収線になっているP Cygプロファイルと呼ばれる特徴を示し、この天体のスペクトルでは輝線のピーク波長から秒速500-600kmほど青方偏移した波長に吸収線の構造がみられることも分かり、これらの特徴から、この天体が古典新星で爆発後最も明るい時期にあたることが判明しました。

この天体は新星爆発によって周囲へ物質が広がる速度が比較的遅いため、さそり座に発見された方の新星とは異なり、ゆっくりと暗くなるタイプの新星であると考えられます。

参考文献

※さそり座新星2014

※はくちょう座新星2014

2014年4月4日

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