板垣さんがわし座に新星を発見

著者 :前原裕之(東京大学木曽観測所)

今の時期の晴れた日の夕方、南西の空にひときわ明るく輝く「宵の明星」の金星を目にすることができますが、その金星からさらに視線を天頂の方に移すと、まだ夏の大三角が見えることに気がつくかと思います。夏の大三角を形作る星の1つアルタイルを含むわし座に新星が発見されました。

山形県の板垣公一(いたがきこういち)さんは、10月28.443日(世界時)に、口径21cmの望遠鏡をCCDカメラを用いて撮影した画像から13.8等の新天体を発見し、さらに28.457日に口径50cmの望遠鏡を用いてこの天体を確認しました。発見10日前の10月18日に撮影した画像には、この天体の位置には14.3等よりも明るい天体は存在していませんでした。板垣さんの観測によるこの天体の位置は

赤経:19時 02分 33.35秒
赤緯:+03度 15分 19.0秒    (2000.0年分点)

です。

この天体は茨城県の清田誠一郎さんやイタリアのG. Masiさんらのグループ、フィンランドのA. Oksanenさんによって、それぞれ確認観測が行なわれ、非常に赤い色をしている天体であることがわかりました。

また、この天体の分光観測が、岡山県の藤井貢さんやオーストラリアのT. Bohlsenさんなどの他、広島大学のグループとパドヴァ天文台のグループによってそれぞれ行なわれました。この天体のスペクトルには、非常に赤い連続光成分に、P Cyg型プロファイルと呼ばれる、短波長側が吸収線になっているHαや中性酸素の輝線の他、1階電離した鉄の輝線がみられることが分かりました。このようなスペクトルの特徴から、この天体は明るさの極大の時期にあたる古典新星で、強い星間赤化を受けていることが分かりました。

この天体は眼視等級に近いV等級では15等ほどと暗いため、眼視的に見ることは困難と思われます。新星爆発によって膨張するガスの速度は秒速1000km程度と、それほど速くはないことから、ゆっくりと暗くなるタイプの新星であると考えられます。

参考文献

2013年11月8日

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