いるか座は夏の天の川のほとりに位置する比較的小さな星座ですが、1967年には3等級まで増光した新星(今日ではHR Delとの変光星名がつけられています)が出現したこともあります。そのいるか座の中に、6等級と双眼鏡でも簡単に見ることのできる明るさの新星が発見されました。発見したのはこれまでにも多数の超新星や銀河系内の新星を発見されている、山形県の板垣公一(いたがきこういち)さんです。
板垣さんは8月14.5843日(世界時)に、口径18cmの望遠鏡とCCDカメラを用いて撮影した画像から、6.8等の新天体を発見し、14.750日には口径60cmの望遠鏡でこの天体を確認しました。前日までに撮影された画像には、この天体は13等以下で写っていないことも報告されました。板垣さんの観測によるこの天体の位置は
赤経:20時 23分 30.73秒 赤緯:+20度 46分 04.1秒 (2000.0年分点)
です。
この天体は、ちょうど夜を迎えたヨーロッパの多数の観測者によってその存在が確認されました。イタリアのG. Masiさんらのグループは、口径35cmの望遠鏡でこの天体の分光観測を行ない、この天体が強いHα輝線を示すことを報告しました。また、リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学のグループが、ラ・パルマにある口径2mの望遠鏡で行なった分光観測によると、この天体のスペクトルには、はくちょう座P型プロファイルと呼ばれる、青側が吸収線、赤側が輝線となっている形状をした、水素のバルマー線と1階電離した鉄輝線、および弱い中性ヘリウムの輝線がみられることが分かり、この天体が爆発直後の古典新星であることが判明しました。
この天体はドイツのP. Schmeerさんによって双眼鏡を使った眼視観測で6.0等の明るさで見えることが報告されました。まだ爆発直後と思われることから、日本で観測できる時間帯には発見時よりもさらに増光している可能性もあります。6等級と市街地でも小さな双眼鏡で十分見える明るい新星ですので、まだ新星を見たことがない人には見るチャンスと言えます。また、デジタルカメラでも固定撮影で容易に写すことができると思われます。今後の明るさや色の変化等に注目してみて下さい。
参考文献
- CBAT "Transient Object Followup Reports" (PNV J20233073+2046041)
- ATEL #5279 "Spectroscopic Observation of PNV J20233073+2046041 with the Liverpool Telescope" Darnley et al.
- 板垣さんによる新星の画像
- MASTERによる発見前の画像との比較
2013年8月15日