板垣さん、櫻井さんがいて座に新星を発見

著者 :前原裕之(京都大学花山天文台)

6月~7月にかけては、新星が多く発見される、天の川のなかでも私たちの銀河系の中心方向の近くが観測しやすい時期ですが、日本の多くの地域ではこの時期は梅雨になるため、なかなか星を見る機会がない時期でもあります。その銀河系の中心方向に近い、いて座とへびつかい座の境界付近に、10等級の新星が発見されました。

新星を発見したのは、これまでに多数の超新星を発見されていることで有名な、山形県の板垣公一さんです。板垣さんは6月26.5494日(世界時、以下同様)に口径21cmの反射望遠鏡とCCDカメラを用いて撮影した画像から、10.2等級の新天体を発見し、その直後に口径60cmの反射望遠鏡で、この天体を確認しました。この天体は茨城県の櫻井幸夫さんによっても、26.540日に撮影された画像から9.9等で独立に発見が報告されています。この天体の位置は

赤経:17時 52分 25.79秒
赤緯:-21度 26分 21.5秒

で、M8から北西に約4度ほどの位置になります。

この天体の存在は宮城県の遊佐さんや茨城県の清田さんなど多数の観測者によって確認観測が行なわれました。この天体は27.355日にはV等級で9.8等でしたが、28.307日には11.0等、28.614日には11.2等と発見の1日後から急速に暗くなっている様子が観測されました。

分光観測によるこの天体の観測は、KissさんらKonkoly Observatory(ハンガリー)のグループ、岡山県の藤井さん、岡山理科大の今村さん、筆者、フランスのBuilさん、Padova天文台(イアリア)のMunariさんによってそれぞれ行なわれました。発見直後の26.95日に分光観測を行なったKissさんらの観測によると、特に目立った輝線はみられず、星間物質によるナトリウムD線の強い吸収がみられただけでしたが、28日に観測を行なった藤井さん、今村さん、筆者、Builさん、Munariさんの観測では、幅が広く強い水素のバルマー輝線の他、中性のヘリウム、酸素などの輝線がみられました。Hα輝線の幅は秒速4000-4500kmで、この新星は爆発によって膨張する物質の速度が比較的大きい新星であることが判明しました。

膨張速度が大きい新星は急速に暗くなってしまうものが多いことが知られています。実際27日以降には急速な減光を示していることが報告されており、今後の明るさやスペクトルの変化が注目されます。

参考文献

2012年6月30日

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