さそり座に新星が出現

著者:前原裕之(京都大学花山天文台)

さそり座やいて座、へびつかい座といった私たちの銀河系の中心方向に見える星座には、これまで多数の新星が発見されています。今年に入ってからも、へびつかい座に2個、いて座に1個の新星が既に発見されましたが、今度はさそり座に新星が発見されました。

この新星は重力マイクロレンズ現象の探査を行なっているMicrolensing Observations in Astrophysics (MOA)のグループによって、5月22.80日(世界時、以下同様)に18.5等級の重力マイクロレンズ候補天体 MOA 2012 BLG-320 として発見されました。MOAは日本・ニュージーランド共同のマイクロレンズ現象の探索プロジェクトで、ジーランド南島マウントジョン天文台で大小マゼラン雲方向と銀河中心方向の膨大な数の星の明るさ観測し重力マイクロレンズ現象の探査を行なっています。この天体の位置は

赤経: 17時50分53.90秒
赤緯:-32度37分20.5秒            (2000.0年分点)

で、さそり座の明るい散開星団のM7から北に2度ほどの位置になります。

MOAグループの観測によると、この天体の増光前の明るさは19~19.5等でしたが、5月14~16日の間にゆっくりと増光を始め、5月24日以降には急速な増光を示すようになりました。6月1.77日から2.55日の間にはさらに劇的な増光を示し、17等ほどだったこの天体は6月3.33日には11等にまで明るくなりました。また、5月28日から31日の間の観測では、周期1.6時間、振幅0.1等ほどの変動がみられたことも報告されています。このような急速な増光を受けて、より詳細な観測がMOAとMicrolensing Follow-Up Network (microFUN)のグループによって行なわれました。

6月4.08日にチリにあるVLTで行なわれた分光観測によると、この天体のスペクトルには、はくちょう座P型プロファイルを示す水素のバルマー系列や、一階電離した鉄、中性酸素の強い輝線がみられ、HαとHβ輝線の幅はおよそ秒速800kmに相当することが判明しました。このようなスペクトルの特徴から、この天体は比較的ゆっくりとした減光を示すタイプの古典新星であると考えられます。

6月7.29日のチリのセロ トロロの1.3m望遠鏡の観測や、CBETでの発見公表後にVSOLJMLに報告された茨城県の清田さんの観測では、Vバンドでは11等台、Iバンドでは9等台半ばで、まだゆっくりと明るくなっているようです。

この新星のように、新星爆発によるガスの膨張速度が遅く、ゆっくりとした減光を示す新星の中には、極大付近で複数回の増光を示したり、ダスト形成による深い一時的な減光を示すものがあることが知られており、今後の明るさやスペクトルの変化が注目されます。

参考文献

2012年6月10日

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