星は、分子雲と呼ばれるガスから作られます。分子雲の一部が何らかのきっかけにより収縮をはじめると、中心温度が上昇していきます。そして、一定の温度に達すると水素をヘリウムに変える反応が始まり、一人前の星(主系列星)として輝きはじめるのです。そのため生まれたての星、特に主系列星に達する前の星は多くの場合、まだ回りにガスや微粒子をまだ残していることが知られています。
ぎょしゃ座ABは、そのような主系列星の前段階にいる星であるHerbig Ae/Be星と呼ばれる天体の一つです。このタイプの天体は、太陽の数倍の質量を持つ星が主系列星に達するすこし前の段階にある天体であるといわれています。前にも述べた通り周囲にはまだ物質を残しており、そのためこの物質が星の前面を通ることなどの原因によって不規則に変光を示すことが知られています。ぎょしゃ座ABは平常光度が6等台後半~7等前後と、Herbig Ae/Be星としてはもっとも明るく、近い距離にある部類の天体にあたります。そのようなこともあり、この天体は生まれつつある星の物理を知ろうとする研究者の重要なターゲットとなってきました。2004年には、すばる望遠鏡によってこの星が回りに円盤を持っており、うずまき状に惑星系が形成されつつある様子を直接捉えたという話題もありました。
ところで、ぎょしゃ座ABはそれほど目立った減光の頻度が高い天体ではありません。前回減光したのは、1997年の冬のことでしたが、1等ほど減光したものの数日で元の明るさに戻ってしまいました。その後はまた長らく6等後半の光度を保ちつづけていました。しかし、12月6.9日(世界時)にColin Henshawさんによりこの天体が14年ぶりに7.4等まで暗くなっているところが確認されました。この報告をうけ、ハンガリーのFidrich Robertさんによって確認観測を行われ、7.2-7.3等であることが報告されました。平常光度が6.8等前後なので、現在0.数等暗い状態ということになります。
この減光がどれくらい続くかはまったく予想がつきません。7日にColinHenshawさんが報告したところではまた平常光度に近づいているのではないか、とのことです。前回の減光が数日で終了したことを考えると、今回もこのまま元の光度に戻ってしまうのかもしれません。あるいは、逆にまた減光を始めて、長く暗い状態を続けるかもしれません。そのような点でも興味深い天体です。大きめの双眼鏡があれば容易に観測できるターゲットですので、ぜひこの機会に目を向けてみてはいかがでしょうか。
参考文献
- baavss-alert 2789, 2791, 2794
- Fukagawa, M. et al. Spiral Structure in the Circumstellar Disk around AB Aurigae" PASJ, 605, 53 (2004)
2011年12月8日