矮新星ヘルクレス座PRがまれな大増光

著者:大島誠人(京大理)

 秋が深まり、日没がしだいに早まる時期となってきました。日が短くなったこともあり、夕方の空低くにはまだ春の星座が残っています。そんな低空に、またもまれな矮新星の増光が報告されました。

 増光が発見されたのは、ヘルクレス座PRと名づけられている星です。この天体は1950年頃にドイツのSonnerberg天文台で発見された変光星で、極大14等の矮新星とされていました。しかし、はっきりした増光は全くとらえられていませんでした。極小に当たる天体についてすらはっきりしていませんでしたが、1999年に21.3等級の星と同定されたことから、増光範囲の大きな矮新星であろうと考えられていました。いくつか増光ではないかと疑われる報告はありましたが、いずれも確証はもたれていませんでした。

 今回の発見したのはハンガリーのWalter Macdonald氏です。発見時既に13.4等(CCDノーフィルター)まで明るくなっていました。その後メーリングリストを通じて増光が伝えられ、連続測光観測が行われました。Tom Krajci(アメリカ合衆国)やPavol A. Dubovsky(スロバキア)らによって行われた観測から振幅0.1等弱の変動がみられ、おそらく矮新星の中のWZ Sge型と呼ばれるサブグループの増光初期にみられる変動である、早期スーパーハンプと呼ばれる変動だろうと考えられます。増光範囲が7等以上と非常に大きいことも、このサブグループの特徴によく合っています。

 矮新星は短い軌道周期を持つ連星であり、WZ Sge型矮新星はその中でも特に軌道周期が短いものです。早期スーパーハンプはその軌道周期とほぼ等しい値をとることが知られていますが、今回求められた早期スーパーハンプの周期は78分程度となっています。これは、WZ Sge型矮新星の中でももっとも周期が短い部類に入ります。増光範囲が大きいこともあり、今後の観測が大きく期待される天体です。

 正確な位置は、以下のとおりです。

赤経 18時08分04.47秒
赤緯 +38度46分17.0秒 (20000.0年分点)

 発見時点の光度でも13等台とやや暗く、夕方の西空ということで観測しにくい位置にあることが悔やまれますが、観測可能な方はぜひご観測ください。WZ Sge型矮新星は昨今研究の進んでいる天体で、光度変化のバリエーションがさまざまあることがわかりつつあります。短周期変動を追う連続測光観測も無論非常に重要ですが、一方で一日一点ずつの、毎日天体の光度変化を追った観測も望まれるところです。

参考文献

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