秋の夜空といえばカシオペア座やペルセウス座をはじめとした北の空の華やかさが目に付く一方で、南の空は明るい星もほとんどなく目立たない印象があります。どこが何座か、改めて訊かれて戸惑ってしまったことのある方も多いのではないでしょうか。それもそのはず、この方角は銀河の極の方向。星がたくさんある銀河の円盤面から離れた方向にあたるのです。われわれの銀河の南極はこの目立たないエリアにある星座の一つ、ちょうこくしつ座の方向にあります。
そんな影の薄い感のあるちょうこくしつ座ですが、このたび新たな矮新星が発見されました。この天体の興味を引く点は、非常に明るいこと、そして実はすでに変光星として知られていた天体であるということです。
この天体はHamburg/ESOサーベイというサーベイによって発見された16等台半ばの天体です。のちにROSAT衛星によってX線の検出がなされたことや、測光観測やスペクトル観測によって判明した特徴などから、激変星の一つであろうと考えられるようになりました。極小時における光度変化の観測から軌道周期が78.2分と見積もられたため、もしこの星が矮新星増光を起こせばおおぐま座SU型矮新星、あるいはそのサブグループであるや座WZ型矮新星となるであろう、と考えられていました。その後ちょうこくしつ座BWという変光星としての名前が付けられましたが、その後特に目立った増光は報告されていませんでした。
2011年10月21.3146日にハワイのM. Linnoltさんによってこの天体が9.6等まで増光していることがAAVSO-DISCUSSIONメーリングリストに報告されました。極小時の光度が16等台半ばであることを考えると増光範囲は7等程度と、WZ Sge型が疑われる値です。その後P. Starrさんによって行われた連続測光観測のデータによると、アーリースーパーハンプ様の弱いダブルピーク状の変動が見られます。アーリースーパーハンプはWZ Sge型矮新星の初期に特徴的な変動であることから、このことからもやはりWZ Sge型矮新星が疑われます。9.6等という極大光度(今後さらに明るくなる可能性もあります)は矮新星の中でももっとも明るい部類に属するものです。
この天体の詳しい位置は、以下のとおりです。
赤経 23時53分00.7秒 赤緯 -38度51分45秒 (2000.0年分点)
この位置からも分かるとおり南に非常に低く、南中時でも高度20度程度にしかなりません。冒頭でも述べたように回りにあまり明るい星のないエリアでもあることから観測はやや難しいかもしれませんが、南中時刻が宵過ぎと季節的には非常に観測しやすいことと光度が明るいことから導入できれば小望遠鏡でもその姿をとらえることは可能かと思います。
このように、極小がすでに変光星として同定されている天体から矮新星となるケースというのは非常に珍しいものです。増光を信じて日々のモニター観測を続けた観測者の努力が実った結果といえるでしょう。
参考文献
- Abbott, T. M. C. 他 "The ROSAT cataclysmic variable RX J2353.0-3852." A&A, 318, 34, 1997
- Augusteijn, T & Wisotzki, L. "HE 2350-3908: a dwarf nova with a 78m orbital period." A&A Letter, 324, 57, 1997
- AAVSO MyNewsFlash Report
- vsnet-alert 13782 (AAVSO-DISCUSSIONの転送記事)
2011年10月23日